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行政手続法入門


AIMON(C)1998/02/26-2001/02/07




第4章 行政指導

 第2章では,申請に対する処分について,また,第3章では,不利益処分(聴聞と弁明の機会の付与)について説明しました。これらは保健所長の行う「行政行為」という法行為に当たります。これに対し,第4章では「行政指導」という事実行為について説明します。

[行政指導の意義] 行政指導とは,例えば,衛生上の指導・勧告や税務相談などで,「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧告,助言その他の行為であって処分に該当しないもの」をいいます(2条6号)。一番大切なポイントは,「処分に該当しないもの」という点です。行政庁の処分(≒行政行為)が行われると,処分を受けた者と国や地方公共団体との間に権利や義務が発生します。そこで,処分を受けた者がそれを無視すると強制執行が行われたり,また,義務違反として不利益処分がされたりすることがあります。これに対し,行政指導が行われても,指導を受けた者に権利や義務は発生しませんので,指導を受けた者がそれを無視しても法的に何も問題は生じないのです。すなわち,行政庁が行政目的を実現するために「事実上のお願い」をしているだけだ,ということです。
 したがって,行政指導は,処分に該当しませんから,不服申立て(行政不服審査法4条)や,抗告訴訟(行政事件訴訟法3条)の対象となりません。しかし,法的な拘束力がなくても「事実上の」損害が生じることはあり得ますから,国家賠償請求(国家賠償法1条)をすることは認められます。

[行政指導の一般原則] 行政指導は事実上のお願いにすぎないのですから,本来,指導を受けた者は,その指導を無視しても一向に差し支えない……はずなのですが,お願いをしてきたのは様々な権限を持っている行政機関ですから,これを無視すると「江戸の敵を長崎で討たれる」ことをおそれて,納得のいかない指導であってもそれに従ってしまう,という事態が生じていました。そこで行政手続法は,「行政指導にあっては,行政指導に携わる者は,いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。」(32条1項),「行政指導に携わる者は,その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱いをしてはならない。」(32条2項)と行政指導の一般原則を規定しています。
 なお,行政指導は,行政庁だけでなく,行政庁の補助機関によっても行われますので,条文上,「行政指導に携わる者」という表現が使われています。

[申請に関連する行政指導] ここで話をAがレストランの営業許可申請をするときに戻しましょう。Aの営業許可の申請に対して,保健所長が,その申請内容のままでは営業許可処分をすることができないと考えているときなどは,許可申請を却下しないで,Aに申請の取下げや内容の変更をするように行政指導することがあります。Aが納得してこの行政指導に従うのであれば何も問題はありません。けれども,Aが許可申請に違法なところはないと考えてその行政指導に従う意思がない場合に,保健所長がいつまでも行政指導を継続すると,あくまで事実上のお願いにすぎない行政指導によって,Aの権利の行使を妨げることになってしまいます。そこで行政手続法は,「申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては,行政指導に携わる者は,申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。」(33条)と規定しています。

[許認可等の権限に関連する行政指導] また,営業許可を得て営業中のAに対し,保健所長が衛生上の指導や勧告という行政指導をすることがあります。この場合にも,Aが行政指導に納得して従えば何も問題はありません。しかし,営業許可の取消処分や営業停止処分をする権限を持っている保健所長から,これらの権限を行使する意思がないにもかかわらず「行政指導に従わないのなら,営業許可の取消しもできるのですよ。」などと言われてしまうと,Aが理不尽な行政指導だと考えたとしても従わざるを得なくなってしまいます。そこで行政手続法は,「許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が,当該権限を行使することができない場合又はする意思がない場合においてする行政指導にあっては,行政指導に携わる者は,当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。」(34条)と規定しています。

[行政指導の方式] ところで,行政指導の問題点は,行政行為とは異なって法律上の根拠がなくても行うことができるものですから,その内容が不明瞭だということです。そこで行政手続法は,「行政指導に携わる者は,その相手方に対して,当該行政指導の趣旨及び内容並びにその責任者を明確に示さなければならない。」(35条1項)と規定しています。
 そして,行政指導が書面で行われた場合には,その書面に趣旨や内容,責任者が記載されていますが,口頭で行われた場合には,これらが不明確となってしまいます。そこで行政手続法は「行政指導が口頭でされた場合において,その相手方から前項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは,当該行政指導に携わる者は,……これを交付しなければならない。」(35条2項)と規定しています。ただし,「行政上特別の支障」があるときは交付しなくても構いません。
 また,行政指導が口頭で行われた場合であっても,例えば,住民票の交付請求があった際の窓口における「運転免許証か何か身分を証明できるものを見せてもらえますか。」という指導などのように「相手方に対しその場において完了する行為を求めるもの」や,「既に文書によりその相手方に通知されている事項と同一の内容を求めるもの」(35条3項)については,書面を交付する必要はありません。

[複数の者を対象とする行政指導] 複数の者に対して行政指導をする場合は,「同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは,行政機関は,あらかじめ,事案に応じ,これらの行政指導に共通してその内容となるべき事項を定め,かつ,行政上特別の支障がない限り,これを公表しなければならない。」(36条)と規定して,特定の者に対してのみ有利な情報を提供するなどの不公平な行政指導とならないようにしています。







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