AIMON(C)1998/02/26-2001/02/07
第1節では,不利益処分をする場合について,第1に,行政庁のしようとしている処分が不利益処分に当たるかどうか,第2に,不利益処分だとしたらそれはどのような基準に基づいて処分がされるのか,第3に,その際に必要な当事者に対する事前手続は「聴聞」か「弁明の機会の付与」か,そして最後に,なぜ不利益処分がされたのかについての理由の提示という,一般的な説明をしました。
この第2節では,不利益処分をする手続の中で最も重要な「聴聞」の手続について,「聴聞の手続に関与する人たち」と「聴聞の手続の流れ」との二つの視点から説明することにします。
┌────────────────────────────────┐
│ (行政庁が指名)→ <主宰者> │
│ │
│ │
│ │
│ <行政庁の職員> <当事者・代理人,補佐人> │
│ │
│ │
│ │
│ <参加人(注1)> <参加人(注2)> │
└────────────────────────────────┘
(注1)当事者に対する不利益処分によって利益となる参加人
(注2)当事者に対する不利益処分によって当事者と同様に不利益を被る参加人
[聴聞の登場人物] 聴聞の手続は,保健所長という行政庁が指名した「主宰者」によって主宰されます。そして,聴聞の期日には,不利益処分をする側からは「行政庁の職員」が出席し,不利益処分を受ける側としては「当事者」としてのAが出頭して意見陳述をします。また,Aに対する不利益処分により利害関係が生じる「関係人」がいる場合があります。この関係人は,一定の要件のもとに「参加人」として聴聞手続に参加することができます。当事者と参加人は,「代理人」を選任して聴聞に関する一切の行為をさせたり,また,「補佐人」と呼ばれる補助者を伴って出頭することもできます。
[当事者の口頭による意見陳述権・証拠書類の提出権] 聴聞を開始するためには,行政庁は,処分の名あて人となる者(A)に対し,聴聞のための通知をしなければなりません(15条)。この聴聞の通知を受けたAを,聴聞の「当事者」といいます。
そして,行政手続法は,当事者(又は参加人)に対し,「当事者(又は参加人)は,聴聞の期日に出頭して,意見を述べ,及び証拠書類等を提出し,並びに主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し,質問を発することができる。」(20条2項)と規定して,聴聞の期日に出頭して意見陳述の機会を与えています(聴聞通知による教示につき15条2項1号)。この口頭による意見陳述権が認められているのは,営業許可の取消しという保健所長の重い不利益処分に対しAにも言い分があるかもしれませんので,これを聴かずに処分をするのはAに対する手続的な保障としては不十分だからです(この点が弁明書を提出できるにすぎない「弁明の機会の付与」との違いです。)。
[陳述書及び証拠書類の提出権] なお,聴聞の期日に出頭して口頭による意見陳述を行うことは,当事者であるA(又は参加人)に保障された権利であって義務ではありません。そこで行政手続法は,「当事者(又は参加人)は,聴聞の期日への出頭に代えて,主宰者に対し,聴聞の期日までに陳述書及び証拠書類等を提出することができる。」(21条1項)と規定しています。
[文書等の閲覧] ところで,保健所長は,Aのどのような行為が営業免許の取消処分の原因となる事実に当たると判断したのでしょうか。また,それはどのような資料に基づいて判断したのでしょうか。聴聞の当事者となったAは,この点について知ることができなければ,的を射た反論をすることができません。そこで行政手続法は,「当事者…は,聴聞の通知があった時から聴聞が終結する時までの間,行政庁に対し,当該事案についてした調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができる。」(18条1項前段)と規定して,文書等の閲覧請求権を認めています(聴聞通知による教示につき15条2項2号)。このAからの文書等の閲覧請求に対し,保健所長は,常に応じなければならないわけではありませんが,Aの閲覧請求は極力認めるべきですから,「第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ,その閲覧を拒むことができない。」(18条1項後段)としています。
また,聴聞の期日において新たに文書等の閲覧をする必要が生じる場合がありますので,「当事者等が聴聞の期日における審理に応じて必要となった資料の閲覧を更に求めることを妨げない。」(18条2項)としています。
なお,閲覧請求が認められる場合でも,保健所長などの行政庁の都合も考慮する必要もあります。そこで行政手続法は,「行政庁は,閲覧について日時及び場所を指定することができる。」(18条3項)と規定しています。
[代理人] 当事者であるAは,自ら聴聞に関する手続を行うだけでなく,「代理人」を選任してこれを行わせることもできます(16条1項)。代理人は複数でも構いません。代理人は,各自,当事者であるAのために,聴聞に関する一切の行為をすることができます(16条2項)。この代理人の資格は,書面で証明しなければなりません(16条3項)。なお,Aが代理人をクビにするなどにより「代理人がその資格を失ったときは,当該代理人を選任した当事者は,書面でその旨を行政庁に届け出なければ」なりません(16条4項)。この届出は,当事者であるA自身がするのであって,代理人がするのではありませんので注意してください。
[補佐人] 聴聞の当事者であるAは,聴聞の期日に「補佐人」とともに出頭することもできます(20条3項)。「補佐人」とは,例えば当事者が言葉をしゃべれない場合に手話で通訳をする者や,また,当事者の足りない知識を持っている専門家などのように,聴聞の期日に当事者や代理人とともに出頭して当事者等を補佐する者をいいます。代理人を選任するには聴聞の主宰者の許可を得る必要はありませんが,補佐人を伴って出頭するには「主宰者の許可」を得なければなりません(20条3項)。
[関係人と参加人] Aに対する不利益処分によって,当事者であるA以外に,利益となったり不利益となったりする「関係人」がいる場合があります。Aに対する不利益処分が飲食店営業許可の取消処分の場合であれば,関係人がいるケースは余り考えられませんが,例えば,化学工場の操業停止処分のような場合であれば,隣接住民が関係人に当たることになりましょう。行政手続法は,「聴聞を主宰する者は,必要があると認めるときは,当事者以外の者であって当該不利益処分の法令に照らし当該不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者(関係人)に対し,当該聴聞に関する手続に参加することを求め,又は当該聴聞の手続に参加することを許可することができる。」(17条1項)と規定して,関係人にも一定の場合には聴聞に参加する機会を保障しています。聴聞に参加した「関係人」を「参加人」といいます。
[参加人の口頭による意見陳述権・証拠書類等の提出権・文書等の閲覧権] 参加人には,当事者と同様に,聴聞期日に出頭し,口頭による意見陳述権が認められますし(20条2項),出頭に代えて陳述書及び証拠書類等の提出権も認められています(21条1項)。この点は当事者と同様です。
また,参加人には,当事者に対する不利益処分によって,@自己の利益を害される参加人と,A自己に利益となる参加人とがあり,このうち@の当事者に対する不利益処分によって「自己の利益を害される参加人」には,文書等の閲覧権も認められています(18条1項)。
その他,参加人も,当事者と同様に,「代理人」を選任することや(17条2項3項),主宰者の許可を得て「補佐人」を伴って出頭することができます(20条3項)。
[当事者と参加人との手続上の違い] 当事者と参加人との手続における違いは次の点です。
@ 参加人には聴聞の通知がされないこと(15条参照)。ただし,期日を続行するときは,期日に出頭しなかった参加人にも通知されます(22条2項)。
A 当事者に対する不利益処分によって自己に利益となる参加人には,文書等の閲覧権が認められないこと(18条1項)。
B 参加人が期日に出席しなくても改めて意見陳述の機会を与えることなく聴聞手続が終結すること(23条)。
[聴聞の主宰者] 「聴聞は,行政庁が指名する…者が主宰」します(19条1項)。この「主宰者」は,処分行政庁である保健所長が,@(保健所の)職員,その他A政令で定める者の中から指名します(19条1項)。このように行政庁とは別に「主宰者」の存在が予定されているのは,処分行政庁と異なる者が聴聞を主宰する方が公正な手続が期待できるからです。ただし,処分行政庁が自分自身を主宰者に指名することは禁止されていませんので,公正という観点からは少し不徹底です。
[主宰者となることができない人] なお,当事者又は参加人,その一定の範囲の親族,その代理人や補佐人などは主宰者となることはできません(19条2項)。
<主宰者となることができない人>
@ 聴聞の「当事者又は参加人」
A 当事者・参加人の「配偶者,4親等内の親族又は同居の親族」
B 当事者・参加人の「代理人又は補佐人」
C 当事者・参加人の「代理人又は補佐人であったことのある者」
D 当事者・参加人の「後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人又は補助監督人」
E 「参加人以外の関係人」
ここでは,聴聞の手続の流れについて説明します。次のチャートは,聴聞の通知から始まり,聴聞の期日を経て,その報告を受けた保健所長が不利益処分をするまでの流れを示したものです。
┌───────────────────────┐
│ 聴聞の通知 │
└───────────────────────┘
↓
┌───────────────────────┐
│ 聴聞の期日 → (続行期日)→ 聴聞の終結 │
└───────────────────────┘
↓
┌────────────────┐ ↑
│ 聴聞調書・報告書の作成と提出 │(聴聞の再開)
└────────────────┘ │
↓
┌───────────────────────┐
│ 行政庁による処分決定 │
└───────────────────────┘
[聴聞の通知の方式] 処分行政庁である保健所長は,聴聞を始めるに当たっては,聴聞を行う期日までに相当の期間をおいて,不利益処分の名あて人となるべきAに対し,次の四つの事項を書面で通知しなければなりません(15条1項)。
@ 予定される不利益処分の「内容」及び「根拠となる法令の条項」
A 「不利益処分の原因となる事実」
B 聴聞の「期日」及び「場所」
C 聴聞に関する事務を所掌する組織の「名称」及び「所在地」
[教示] また,聴聞通知の書面においては,次の二つの事項を教示しなければなりません(15条2項)。
@ 聴聞の期日に出頭して意見を述べ,及び証拠書類又は証拠物を提出し,又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出できること。
A 聴聞が終結するまでの間,当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができること。
これらの事項につき教示が必要とされているのは,当事者には@口頭による意見陳述権(20条2項)やA文書等の閲覧請求権(18条)が認められますが,当事者がこれらの権利が認められていることを知らずにいると,せっかく認められた権利が無意味になってしまうからです。
[公示による通知] なお,不利益処分の名あて人が所在不明の場合には,この書面を交付することができません。そこで,この書面をいつでも交付できる旨を行政庁の事務所の掲示場に掲示することによって,聴聞のための通知を行うことができます。この場合には,掲示を始めた日から2週間を経過したときに,この書面がその者に到達したものとみなされます(15条3項)。この規定は,続行期日を指定した場合(22条3項)のほか,弁明の機会の付与の手続にも準用されています(31条)。
[行政庁の職員による冒頭説明] 聴聞の期日においては,「主宰者は,最初の聴聞の期日の冒頭において,行政庁の職員に,予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項並びにその原因となる事実を聴聞の期日に出頭した者に対し説明させなければ」なりません(20条1項)。
そこで,保健所長の補助職員は,「予定される不利益処分の内容:Aに対する営業免許の取消処分。根拠となる法令の条項:食品衛生法○○条。不利益処分の原因となる事実:Aは,飲食店営業の許可を得てレストラン△△の営業を営んでいたところ,平成○年○月○日に同レストランにおいて食中毒の原因となる○△菌の発生した食物を多数の客に提供し,もって多数の客に食中毒による死傷結果を生じさせたものである。」などと説明します。これは,既にAに対する聴聞の通知に記載した事項(15条1項1号2号)と同じですが,参加人に対して聴聞の通知はされませんので,参加人が出頭しているときは冒頭説明をする意味があります。
[当事者の口頭による意見陳述権・証拠書類等の提出権] これに対し,当事者であるAは,「私のレストランでは,食品の衛生管理は万全であり,食中毒が生じることなどありません。」などと意見を述べたり,証拠書類等を提出したりできます。また,主宰者の許可を得て「保健所では,なぜそれらの者が私のレストランに来店した客だと判断したのですか?」などと行政庁の職員に対して質問を発することができます(20条2項)。これらの権利は参加人にも与えられています。この点については既に「聴聞に関与する人たち」のところで説明したとおりです。
[主宰者の釈明権] 主宰者は,保健所長の補助職員とAとのそれぞれの言い分を聴き,更に「聴聞の期日において必要があると認めるときは,当事者若しくは参加人に対し質問を発し,意見の陳述若しくは証拠の提出を促し,又は行政庁の職員に対し説明を求めること」ができます(20条4項)。
[当事者・参加人の不出頭] なお,「主宰者は,当事者又は参加人の一部が出頭しないときであっても,聴聞の期日における審理を行うこと」ができます(20条5項)。この場合,当事者又は参加人が陳述書及び証拠書類等の提出権(21条1項)に基づいてこれらの書類を提出しているときは,「主宰者は,聴聞期日に出頭した者に対し,その求めに応じて,提出された陳述書及び証拠書類等を示すこと」ができます(21条2項)。
[聴聞の審理の非公開] これらの「聴聞の期日における審理は,……公開しない」(20条6項)ことになっています。聴聞を公開することとすると,聴聞の当事者がプライバシーの侵害されることをおそれて,せっかくの聴聞手続を放棄してしまうかもしれないからです。したがって,当事者や第三者のプライバシーを侵害するおそれがない場合など,「行政庁が公開することを相当と認めるとき」は例外的に公開することができます(20条6項)。憲法82条の裁判の公開と混同しないように注意しましょう。
[続行期日の指定] 聴聞の審理は1回の期日では終わらない場合がありますので,行政手続法は,「主宰者は,聴聞の期日における審理の結果,なお聴聞を続行する必要があると認めるときは,さらに新たな期日を定めることができる。」(22条1項)と規定しています。この場合,「聴聞の期日に出頭した当事者及び参加人に対しては,当該聴聞の期日においてこれを告知」すればよいのですが,それ以外の聴聞の期日に出頭しなかった当事者及び参加人に対しては,「あらかじめ,次回の聴聞の期日及び場所を書面により通知しなければ」なりません(22条2項)。この場合には,公示による通知に関する15条3項が準用されています(22条3項)。
[当事者の不出頭の場合における聴聞の終結] 以上の聴聞の審理がすべて終了すれば聴聞は終結します。しかし,これ以外にも,当事者が聴聞期日に出頭せず,かつ,陳述書や証拠書類等を提出しない場合や参加人が出頭しない場合にも終結します。当事者の不出頭の場合は,更に「正当な理由がないとき」と,「正当な理由があるとき」とがあります。行政手続法23条は分かりにくい条文ですので,次のチャートを見ながら読んでください。
┌正当の理由なし……………意見陳述等の機会を与えずに終結できる
│ ↑
当事者→不出頭+証拠書類等の不提出┤ └────────┐
│ ┌出頭が見込めるとき(→出頭すれば期日を続行)
└正当の理由あり┤
└出頭が見込めないとき
↓
相当期限を定めて証拠書類等の提出を求める
↓
・……………期限到来したときに終結できる
参加人→不出頭…………………………(正当な理由の有無を問わず)意見陳述等の機会を与えずに終結できる
[当事者の場合(正当事由がないとき)] 当事者が聴聞期日に出頭せず,かつ,陳述書や証拠書類等を提出しない場合で,正当な理由がないときは,当事者が自ら聴聞期日への出頭(及び陳述書等の提出)を放棄しているのですから,「改めて意見を述べ,及び証拠書類等を提出する機会を与えることなく,聴聞を終結すること」ができます(23条1項)。
[当事者の場合(正当事由があるとき)] しかし,当事者が聴聞期日に出頭せず,かつ,陳述書や証拠書類等を提出しない場合でも正当な理由があるときは,当事者は聴聞手続に出頭したくてもできないのですから,更に意見陳述をする機会を認めなければなりません。ただ,その後,「聴聞期日への出頭が相当期間引き続き見込めない」のであれば,一定期間経過後に終結せざるを得ません。そこで行政手続法は,「期限を定めて陳述書及び証拠書類等の提出を求め,当該期限が到来したときに聴聞を終結することとすることができる。」(23条2項)としています。
[参加人の場合] 参加人が聴聞の期日に出頭しない場合は,たとえ正当な理由があったとしても,「改めて意見を述べ,及び証拠書類等を提出する機会を与えることなく,聴聞を終結すること」ができます(23条1項)。参加人は不利益処分を受ける当事者ではありません。そこで,当事者が聴聞期日に出頭し,また,主宰者も聴聞を終結できると判断したにもかかわらず,参加人の不出頭によって聴聞を終結できないとするのは妥当でないからです。
[聴聞調書] 「主宰者は,聴聞の審理の経過を記載した調書を作成」しなければなりません。この調書には,「不利益処分の原因となる事実に対する当事者及び参加人の陳述の要旨」を明らかにしておく必要があります(24条1項)。この調書は,「聴聞の期日における審理が行われた場合には各期日ごとに」作成し,もし,「当該審理が行われなかった場合には聴聞の終結後速やかに」作成しなければなりません(24条2項)。
[報告書] 主宰者は,前述の聴聞調書のほかに「聴聞の終結後速やかに,不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成」しなければなりません(24条3項前段)。そして,聴聞調書とともにこの報告書を,行政庁に提出しなければなりません(24条3項後段)。
[聴聞調書及び報告書の閲覧] 「当事者」又は「当事者に対する不利益処分によって自己の利益を害される参加人」は,聴聞調書及び報告書の閲覧を求めることができます(24条4項)。
[聴聞を経てされる不利益処分の決定] 保健所長は,聴聞の主宰者から聴聞調書及び報告書を受け取り,いよいよ不利益処分の決定をすることになります。この場合,保健所長は,(自分の部下である)補助職員を聴聞の主宰者として指名することもありますから,聴聞の主宰者の意見に必ず従わなければならないということはありません。しかし,聴聞の主宰者の意見を全く無視できるとするのも,聴聞の手続を無駄にしてしまうことになります。そこで行政手続法は,「行政庁は,不利益処分の決定をするときは,聴聞調書の内容及び報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれをしなければならない。」(26条)としています。
このように,Aは,聴聞の手続により反論をする機会を保障された上で,初めて保健所長による営業許可の取消しという重い行政処分を受けることになります。
[聴聞の再開] なお,聴聞が終わり,保健所長が聴聞の主宰者から聴聞調書及び報告書を受け取った後でも,その後の事情によっては更にAに対して意見陳述の機会を与えるべき場合も生じることがあります。そこで行政手続法は,「行政庁は,聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると認めるときは,主宰者に対し,…(24条3項の規定により主宰者から)…提出された報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることができる。」(25条前段)と規定しています。この聴聞を再開する場合には,続行期日に関する行政手続法22条2項本文及び3項の規定が準用されます(25条後段)。
[中間付随処分に対する不服申立ての制限] 以上,聴聞と聴聞を経てされる不利益処分について説明しましたが,Aは,この聴聞に関する手続においても,保健所長や聴聞の主宰者から,様々な手続上の処分を受ける場合があります。例えば,Aが文書等の閲覧を請求したにもかかわらずその請求を却下された場合などです。このような処分は,聴聞における中間付随的な処分にすぎません。もしこれらの処分についてAに不服があっても,最終的な営業許可の取消処分自体について不服申立てを認めれば足り,いちいち中間付随的処分についてまで行政不服審査法による不服申立てを認める必要は少ないと考えられます。そこで行政手続法は,「行政庁又は主宰者がこの節の規定に基づいてした処分については,行政不服審査法による不服申立てをすることができない。」(27条1項)と規定しています。
[不利益処分に対する異議申立ての制限] また,営業許可の取消処分自体の不服申立てについても,既に聴聞手続で事前に意見陳述等の機会が与えられた上でされているのですから,(仮に異議申立てが認められているとして,)再び保健所長に異議を申し立てても結論は変わらないはずです。そこで行政手続法は,「聴聞を経てされた処分については,当事者又は参加人は,行政不服審査法による異議申立てをすることができない。」(27条2項本文)と規定しています。ここで制限されているのは処分行政庁に対する「異議申立て」であり,処分行政庁の上級行政庁等に対する「審査請求」をすることはできますので注意してください。
ただ,当事者に異議申立てが制限されるのは,既に聴聞という事前手続を保障されていたからですが,「公示による通知により当事者となり,かつ,聴聞期日に出頭しなかった者」は,現実には聴聞の機会を利用できなかったのであり,なお異議申立てを認める必要があります。そこで「公示による通知により当事者となり,かつ,聴聞期日に出頭しなかった者」には,この異議申立ての制限をしないことにしています(27条2項ただし書)。