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行政手続法入門


AIMON(C)1998/02/26-2001/02/07




第2章 申請に対する処分

 この第2章からが,いよいよ具体的な行政手続についての説明です。冒頭に掲げた,店舗を新築してレストランの営業を始めようとしているAという人の例を思い出しながら,読み進んでください。

  一 許可申請の審査基準はどのようになっているのか(審査基準)

[申請とその審査基準] Aがレストランの営業を行うためには,保健所長から飲食店の営業許可をもらわなくてはなりません。そこで,Aは,保健所長に対して,営業許可申請をする必要があります。保健所長は,Aの許可申請に対して,食品衛生法という法律の定めに従って許可するかどうかを判断することになります。ただ,法令の規定があってもこれはなお抽象的なものですから,保健所長が公正に判断するためには,更に具体的に判断するための「審査基準」を定めておく必要があります。そこで行政手続法は,「行政庁は,申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準を定めるものとする。」(5条1項)として,行政庁に審査基準の作成を義務づけ,また,「行政庁は,審査基準を定めるに当たっては,当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。」(5条2項)としています。なお,たとえ監督官庁から審査基準に係る通達があっても,それは審査基準作成の指針にすぎませんので,処分行政庁(保健所長)が,自ら審査基準を作成する必要があります。
 そして,許認可の申請をする私たちにとっても,その審査基準が公にしてあった方が便利ですから,「行政庁は,……法令により当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。」(5条3項)としています。ただし,「行政上特別の支障があるとき」は,公にする必要はありません。

※ 従来は,許認可の具体的基準が明らかでないため,申請者は,行政庁へ事前に相談に行くことが多く,これが不透明な行政指導を生じさせる原因となっていました(行政指導については第4章を参照)。


  二 許可されるまでどのくらいの期間がかかるか(標準処理期間)

[標準処理期間] さて,必要な書類をそろえて許可申請をしたAは,いつ営業許可をもらえるのでしょうか。1週間後,1か月後,それとも1年後でしょうか。このように,許認可の申請をした者にとって,その処理期間は重大な関心事となります。そこで行政手続法は,標準処理期間につき,「行政庁は,申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努めるとともに,これを定めたときは,これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。」(6条)としています。ただし,本条は,「定めるよう努める…」として努力義務を規定したにとどまっていますので,必ず標準処理期間を定めなければならないものではありません。


  三 許可申請を握りつぶされたら?

[申請に対する審査] 前述の標準処理期間を定めてあっても,保健所長が,Aの提出した許可申請書を受理していないとして審査を開始してくれなければ,無意味となります。従来は,申請書が行政庁に到達しても,「受付」と「受理」とを区別して,受理をしなければ審査を開始する必要はないとする取扱いがされることがあり,これがお役所に対する不信感を生む要因となっていました。そこで行政手続法は,「行政庁は,申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければなら」ない(7条前段)と規定しています。

[形式的要件に適合しない申請] なお,申請の形式上の要件(例えば,申請書の記載事項に不備がないこと,申請書に必要な書類が添付されていること,申請をすることができる期間内にされたものであること)に適合しない申請がされた場合にも,「速やかに,申請をした者に対し,相当の期間を定めて当該申請の補正を求め,又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。」(7条後段)と規定しています。本条後段は,行政不服審査法21条のように,拒否するには「必ず」補正を求めなければならないという規定ではありません。しかし,これは行政庁が大量の申請を受けた場合の事務処理上の負担を考慮したためですから,できるだけ補正を求めるよう運用することが望ましいといえましょう。


  四 許可申請の審査は今どうなっているのか

[情報の提供] 標準処理期間はあくまで許可・不許可処分がされる期間についての目安にすぎません。そこで,Aにとっては,現実に許可証を受け取るまでは,保健所長の審査がどの程度進められているかについて問い合わせたいと思うことも生じます。そのために,行政手続法は,「行政庁は,申請者の求めに応じ,当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。」(9条1項)と規定しています。

 その他,申請に必要な情報についても,「行政庁は,申請をしようとする者又は申請者の求めに応じ,申請書の記載及び添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報の提供に努めなければならない。」(9条2項)としています。


  五 隣接住民の意見はどうなる(公聴会)

[公聴会の開催] ところで,Aが店舗を新築してレストランを経営するためには,飲食店の営業許可だけでなく,店舗の新築のための建築確認も必要となります。すなわち,建物を建築するためには,建築計画が適法であるか否かについて,建築主事という行政庁から「建築確認」をしてもらわなければならないのです。建築主事が建築確認をする場合は,違法な建築物によって隣接住民が火災などの被害に遭わないようにすることも考慮しなければなりませんので,隣接住民という申請者以外の者の意見をも聴くことが好ましいことも少なくありません(例えば,Aが原子力発電所や化学工場の建築を計画している場合を考えてみましょう。)。そこで行政手続法は,「行政庁は,申請に対する処分であって,申請者以外の者の利害を考慮すべきことが当該法令において許認可等の要件とされているものを行う場合には,必要に応じ,公聴会の開催その他の適当な方法により当該申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。」(10条)として公聴会の開催等の努力義務を規定しています。なお,この「公聴会」と第3章で説明する「聴聞」とを混同しないように注意してください。

 公聴会:申請者以外の者の意見を聴くためのもの

 聴 聞:不利益処分を受ける者の言い分を聴くためのもの


  六 営業許可申請と建築確認との関係は?

[複数の行政庁が関与する処分] Aが,建築主事に対する建築確認申請とともに,保健所長に対する営業許可申請を同時にした場合に,従来は,建築主事からは営業許可を先にもらうように指導され,また,保健所長からは建築確認を先にもらうように指導されて,双方の審査が遅れるという事態が生じることがありました。しかし,建築確認と営業許可とはその目的が異なり無関係ですから,このような行政上の取扱いは,Aにとっては,いたずらに営業開始が遅れて迷惑なだけです。そこで行政手続法は,「行政庁は,申請の処理をするに当たり,他の行政庁において同一の申請者からされた関連する申請が審査中であることをもって自らすべき許認可等をするかどうかについての審査又は判断を殊更に遅延させるようなことをしてはならない。」(11条1項)とし,また,「一の申請又は同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請に対する処分について複数の行政庁が関与する場合においては,当該複数の行政庁は,必要に応じ,相互に連絡をとり,当該申請者からの説明の聴取を共同して行う等により審査の促進に努めるものとする。」(11条2項)と規定しています。


  七 なぜ不許可とされたのか(理由の提示)

[拒否処分の理由の提示] Aが建築主事から建築確認をもらって店舗の築造を終え,営業許可書を待っていたのですが,保健所長から届けられたのは不許可処分の通知書だったとしましょう。なぜ不許可処分となったのでしょうか。その理由によっては,Aは,足りない点を補って改めて許可申請をするかもしれませんし,また,保健所長の勘違いであれば不服申立てや取消訴訟の提起をするかもしれません。このように申請について拒否処分を受ける者にとって,その理由を提示してもらうことは,その後の対処のために重要ですし,また,処分をする行政庁にとっても慎重に審査することになるでしょう。そこで行政手続法は,「行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合には,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない。」(8条1項本文)として,理由の提示義務を定めています。

[基準に適合しないことが明白な場合] ただし,この理由の提示は,許可不許可の基準が数量的な指標などの客観的な指標によって明確に定められ,しかも基準に適合しないことが申請書の記載などから明らかなときは,「申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる」とされています(8条1項ただし書)。

[書面か口頭か] なお,この理由の提示義務は,口頭で拒否処分をするときは口頭で提示すれば足りますが,「書面でするときは,同項の理由は,書面により示さなければ」なりません(8条2項)。

 以上と異なり,保健所長の許可処分がされると,Aは,いよいよレストランの営業を開始することができるようになります。







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