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行政手続法入門


AIMON(C)1998/02/26-2001/02/07




第1章 総 則

 本章では,行政手続法の目的や,用語の定義,適用範囲について説明します。ちょっと抽象的な話が続きますが,がんばって読み進んでください(初めて行政手続法を勉強される方は,この章の「一 行政手続の意義と目的」を読んだら,二及び三は後回しにして,第2章以降を先に読みましょう。)。

  一 行政手続法の意義と目的
 1 行政手続法の意義

 なぜ,「申請に対する処分」や「不利益処分」などの手続について,行政手続法を制定する必要があるのでしょうか。これが,ここでのテーマです。

[瑕疵ある行政作用と事後的救済手段] 行政行為や行政指導などの行政作用には,「営業許可処分」のように国民に利益となるもの(受益的処分)と「営業停止処分」のように不利益となるもの(侵益的処分)があります。そして,違法に受益的処分をすることを拒否されたり,また,違法に侵益的処分がされると,相手方である国民は不利益を被ることになります。
 このような場合に備えて,行政不服審査法や行政事件訴訟法による「事後的な救済手段」がありますが,これらの方法で救済を求めても取り消されるまでは有効と扱われますし(このように,違法であっても取り消されるまでは有効として扱われるという行政行為の効力を「公定力」といいます。),また,お金や時間がかかるなど,国民の権利利益の保護という観点からは不十分といわざるを得ません。

[事前手続としての行政手続法] そこで,事前に瑕疵ある行政行為などがされないようにする必要があり,国民の権利利益が侵害されないようにするために「事前手続」を規定した法が「行政手続法」なのです。


 2 行政手続法の目的

[行政手続法の目的] 行政手続法は,「@処分(申請に対する処分・不利益処分),A行政指導,B届出に関する手続に関し共通する事項を定め」た法であり,また,これらの手続を定めることによって,「行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り」,「もって国民の権利利益の保護に資することを目的」としています(1条1項)。

 「処分(申請に対する処分・不利益処分)」「行政指導」「届出」に関する手続に関し共通する事項を定め
      ↓
 行政運営における「公正の確保」と「透明性の向上」を図る
      ↓
 国民の権利利益を保護する


 3 一般法としての行政手続法

[一般法としての行政手続法] 行政手続法は,行政の事前手続に関する一般法であり,@処分,A行政指導,B届出に関する手続に関し行政手続法に規定する事項について,他の法律に特別の定めがある場合は,その特別法が適用されます(1条2項)。

※ 初めて行政手続法を勉強される方は,先に,第2章以下を読みましょう。


  二 行政手続法で用いられる用語の定義

[行政手続法で用いられる用語] 行政手続法2条は,行政手続法で用いられている次の七つの用語について,その意義を定義しています。

@ 法 令  :「法律,法律に基づく命令,条例及び地方公共団体の執行機関の規則」

A 処 分  :「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」 …行政行為とほぼ同じ意味です。

B 申 請  :「法令に基づき,行政庁の許可,認可,免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの」 …営業許可申請や建築確認申請などです。→第2章「申請に対する処分」参照

C 不利益処分:「行政庁が,法令に基づき,特定の者を名あて人として,直接に,これに義務を課し,又はその権利を制限する処分」 …営業許可の取消処分や営業停止処分などです。なお,この定義に当たる処分であっても除外される事項が規定されていますが(2条4号イロハニ),これらは第3章で説明します。→第3章「不利益処分」参照

D 行政機関 :イ・「内閣府,宮内庁,内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項に規定する機関,国家行政組織法第3条第2項に規定する機関」 …府・省・委員会・庁のことです。

         ・「法律の規定に基づき内閣の所轄の下に置かれる機関」 …この例としては人事院があります。

         ・「これらの機関の職員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員」

        ロ 「地方公共団体の機関」 …例えば,知事や市長,教育委員会。ただし,議会は除外されています。

E 行政指導 :「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧告,助言その他の行為であって処分に該当しないもの」 →第4章「行政指導」参照

F 届 出  :「行政庁に対し一定の事項の通知をする行為であって,法令により直接に当該通知が義務づけられているもの」 →第5章「届出」参照


  三 行政手続法の適用範囲

[行政手続法の適用範囲と適用除外] 行政手続法は,行政手続に関する一般法ですから(1条2項),すべての行政手続に適用されるのが原則です。しかし,例外的に行政手続法が適用されない行政手続もあります(適用除外)。この適用除外事項には,@処分の性質上行政手続法の適用になじまないもの(3条1項),A地方公共団体に関するもの(3条2項),B行政機関相互の行為や特殊法人等に対する行為に関するもの(4条)があります。

 1 行政手続法の適用になじまないもの(3条1項)

[行政手続法3条1項の列挙事項] 行政手続法3条1項各号に列挙されている事項については,行政手続法第2章から第4章までの規定(申請に対する処分・不利益処分・行政指導)の適用が除外されています。これらについては,条文を読んで,なぜ適用除外とされるのかという次の@からBの理由が納得できれば十分です。

@ 処分を行う主体が特殊であり本来の行政権の行使とは認められないもの(1号〜6号)
 例えば,国会の議決によってされる処分(1号),裁判所の裁判によってされる処分(2号),検査官会議で決すべきものとされている処分(4号)など

A 特別の法律で律せられる関係が認められるもの(7号〜10号)
 例えば,学校や研修所において,教育や研修の目的を達成するために,学生や研修生に対してされる処分及び行政指導(7号),刑務所などにおいて,その収容の目的を達成するためにされる処分又は行政指導(8号),公務員又は公務員であった者に対してその職務又は身分に関してされる処分及び行政指導(9号),外国人の出入国,難民の認定又は帰化に関する処分又は行政指導(10号)

B 処分の性質上,行政手続法の諸規定の適用になじまないもの(11号〜16号)
 例えば,専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分(11号),審査請求や異議申立てなどの不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の処分(15号),審査請求や聴聞などの意見陳述の手続において法令に基づいてされる処分及び行政指導(16号)など


 2 地方公共団体についての適用除外(3条2項)

 地方公共団体の機関がする処分等については,行政手続法第2章から第5章までの規定(申請に対する処分・不利益処分・行政指導・届出)の適用が除外されます。処分・届出と行政指導とでは適用除外とされる事項の範囲が異なっている点に注意しましょう。

       ┌根拠となる規定が「国の法令」に置かれているもの……適用あり
 ┌処分・届出┤
 │     └根拠となる規定が「条例・規則」に置かれているもの…適用なし
 │
 └行政指導………………………………………………………………………適用なし

(1) 処分・届出についての適用除外

[根拠となる規定が「条例又は規則」に置かれている処分・届出] まずは,地方公共団体の機関が行う処分,及び地方公共団体に対する届出についてです。以下では処分について説明しますが,届出についても同様です。
 地方公共団体の機関が行う処分には,その根拠となっている規定が,その地方公共団体の「条例又は規則」に置かれているものと,「国の法令」に置かれているものとがあります。この地方公共団体の機関が行う処分のうち,根拠規定が地方公共団体の「条例又は規則」に置かれているものについては,行政手続法第2章から第5章までの適用除外とされています。これは,各地方公共団体が「条例や規則」で独自に定めた事項ですから,地方公共団体の自主性を尊重するという見地から認められるものです。
 例えば,ある県の知事が,県で独自に定めた「青少年保護育成条例」に違反する業者に対し,不利益な処分をするときは,その処分の根拠となる規定が条例に置かれていますから,行政手続法第2章から第5章までの規定は適用されません。

[根拠となる規定が「国の法令」に置かれている処分・届出] これに対し,地方公共団体の機関が行う処分のうち,根拠規定が「国の法令」に置かれているものについては,行政手続法が適用されます。これは,「国の法令」で規定した事項については,国がその処分に関心を持っているということからです。
 例えば,パスポート(一般旅券)に関する事務は,本来,国の事務ですから外務大臣が行うべきものですが,政令で定めるところにより,その一部を都道府県知事が行うこととすることができるとされています(法定受託事務)。そこで,知事がパスポートに関する事務を処理する場合には,その権限の根拠となる規定が旅券法という「国の法律」に置かれていますので,行政手続法が適用されることになります。また,国民健康保険事業は,市町村の事務として市町村長が行うこととなっていますが(団体委任事務),この権限の根拠となる規定も,国民健康保険法という「国の法律」に置かれていますので,行政手続法が適用されることになります。


(2) 行政指導についての適用除外

[地方公共団体の行政指導についての適用除外] 行政指導については,処分や届出の場合とは異なって,その根拠となる規定が地方公共団体の「条例・規則」に置かれているときだけでなく「国の法令」に置かれているときでも,すべて適用除外事項とされています。


(3) 地方公共団体の措置(38条)

[地方公共団体の措置] 以上の地方公共団体の機関が行う手続について行政手続法第2章から第5章までの規定が適用されない場合であっても,住民に対し何らの手続的保障をしなくてよいというわけではありません。そこで,行政手続法38条は,「地方公共団体は,…(行政手続法の適用されない)…処分,行政指導及び届出の手続について,この法律の規定の趣旨にのっとり,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と規定しています。この規定により,各地方公共団体は,行政手続条例の制定に向けて努力することが要請されることになります。ただし,「…努めなければならない」という文言からも分かるように,地方公共団体に対し努力義務を課すにとどまっています。


 3 行政機関相互の行為や特殊法人に対する行為についての適用除外(4条)

 行政機関相互の行為や,特殊法人・認可法人・指定検査機関に対する行為については,その地位の特殊性から行政手続法の規定の適用が除外されています。

(1) 行政機関相互の行為

[行政機関相互の行為] 「国の機関又は地方公共団体若しくはその機関に対する処分・行政指導」や「これらの機関又は団体がする届出」については,「固有の資格」に基づいて処分を受けたり,届出をするときは,行政手続法の規定の適用が除外されています(4条1項)。行政手続法は,私たち一般の国民の権利利益の保護を目的としているからです。ここに「固有の資格」とは,「国の機関」や「地方公共団体」「地方公共団体の機関」という特別の立場で,という意味です。例えば,地方公共団体が鉄道事業を営む場合は,「地方公共団体」という特別の立場ではなく,一般私人と同じ立場で行うのですから,その事業における国土交通大臣の処分については,行政手続法が適用されることになります。


(2) 特殊法人・認可法人・指定検査機関

[特殊法人・認可法人] NTT東日本(東日本電信株式会社)などの「特殊法人」(4条2項1号)や,行政書士会などの「認可法人」(4条2項2号)は,行政代行的な業務を行っていますから,一般国民とは異なって,行政庁の監督に服することが必要となります。そこで,行政手続法第2章及び第3章の規定(申請に対する処分・不利益処分)の適用が除外されています。
 ただし,これらの法人の解散を命じる場合や,設立許可を取り消す場合,及びこれらの法人の役員や業務に従事する者を解任する場合には,行政手続法の規定が適用されます。これらの場合は,単なる監督にとどまらず,地位そのものを奪うものとなるからです。

[指定試験機関・指定検査機関] また,行政庁が,試験事務や検査事務などについて,法律に基づき民間の機関を指定して行わせている場合があります。この場合の指定された民間の機関(例えば,行政書士試験の試験事務を行う財団法人行政書士試験研究センター)を「指定試験機関」又は「指定検査機関」といいますが,この指定試験機関・指定検査機関と行政庁との関係はいわば行政機関相互の関係と同様ですから,行政手続法第2章及び第3章の規定(申請に対する処分・不利益処分)の適用が除外されています(4条3項)。
 ただし,指定を取り消す場合や,指定を受けた者が法人の場合にその役員や業務に従事する者を解任するときには,特殊法人等についてと同様に,行政手続法の規定が適用されます。







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