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公用文作成の要領


(昭和27年4月4日付け内閣閣甲第16号内閣官房長官依命通知)

内閣官房注
 この要領のうち,昭和56年10月1日の事務次官等会議において申合せされた「公用文における漢字使用等について」によって当然改められることとなる部分については,必要な読替えを行い,又は収録を省略する措置を講じた。


まえがき


 公用文の新しい書き方については,昭和21年6月17日に「官庁用語を平易にする標準」が次官会議で申し合わせ事項となった。その後,次官会議および閣議では,公用文改善協議会の報告「公用文の改善」を了解事項とし,昭和24年4月5日にそれを「公用文作成の基準について」として内閣官房長官から各省大臣に依命通達した。この「公用文の改善」は,いうまでもなく,さきに出た「官庁用語を平易にする標準」の内容を拡充したものである。しかし,具体的な準則としては,なお,「官庁用語を平易にする標準」その他から採って参照すべき部分が少なくない。そこで,国語審議会では,これらを検討し,必要な修正を加え,「公用文の改善」の内容を本文とし,他から採ったものを補注の形式でまとめ,ここに「公用文作成の要領」として示すこととした。
 公用文を,感じのよく意味のとおりやすいものとするとともに,執務能率の増進をはかるため,その用語用字・文体・書き方などについて,特に次のような点について改善を加えたい。


第1 用語用字について


1 用語について


1 特殊なことばを用いたり,かたくるしいことばを用いることをやめて,日常一般に使われているやさしいことばを用いる。(×印は,常用漢字表にない漢字であることを示す。)
  たとえば
   ×稟請→申請 措置→処置・取り扱い 救援する→救う 懇請する→お願いする 一環として→一つとして 充当する→あてる 即応した→かなった
2 使い方の古いことばを使わず,日常使いなれていることばを用いる。
  たとえば
   ×牙保→周旋・あっせん 彩紋→模様・色模様
3 言いにくいことばを使わず,口調のよいことばを用いる。
  たとえば
   拒否する→受け入れない はばむ→さまたげる
4 音読することばはなるべくさけ,耳で聞いて意味のすぐわかることばを用いる。
  たとえば
   橋×梁→橋 ×塵×埃→ほこり 眼×瞼→まぶた
   充×填する→うめる・つめる
   堅持する→かたく守る 陳述する→のべる
5 音読することばで,意味の二様にとれるものは,なるべくさける。
  たとえば
   協調する(強調するとまぎれるおそれがある。)→歩調を合わせる
   勧奨する(干渉する)→すすめる 衷心(中心)→心から
   潜行する(先行する)→ひそむ 出航(出講)→出帆・出発
6 漢語をいくつもつないでできている長いことばは,むりのない略し方をきめる。
  たとえば
   経済安定本部→経本 中央連絡調整事務局→連調
7 同じ内容のものを違ったことばで言い表すことのないように統一する。
  たとえば
   提起・起訴・提訴 口頭弁論・対審・公判


2 用字について


1 漢字は,常用漢字表による。
 (1) 常用漢字表を使用するにあたっては,特に次のことがらに留意する。
  1 (省略)
  2 外国の地名・人名および外来語は,かたかな書きにする。(一部省略)
    たとえば
     イタリア スウェーデン フランス ロンドン 等
     エジソン ヴィクトリア 等
     ガス ガラス ソーダ ビール ボート マージャン マッチ 等
    ただし,外来語でも「かるた」「さらさ」「たばこ」などのように,外来語の意識のうすくなっているものは,ひらがなで書いてよい。
  3 動植物の名称は,常用漢字表で認めている漢字は使ってもよい。(一部省略)
    たとえば
     ねずみ らくだ いぐさ からむし 等
     犬 牛 馬 桑 桜 等
  4 (省略)
 (2) 常用漢字表で書き表わせないものは,次の標準によって書きかえ,言いかえをする。(言いかえをするときは,「1 用語について」による。)
  1 かな書きにする。
    たとえば (一部省略)
   ア ×遡る→さかのぼる 名×宛→名あて ×佃煮→つくだ煮 ×艀→はしけ 看×做す→みなす 委ねる(常用漢字表の音訓にはずれる。)→ゆだねる
   イ 漢語でも,漢字をはずしても意味のとおる使いなれたものは,そのままかな書きにする。
     たとえば
      でんぷん めいりょう あっせん 等
   ウ 他によい言いかえがなく,または言いかえをしてはふつごうなものは,常用漢字表にはずれた漢字だけをかな書きにする。
     たとえば
      右×舷→右げん 改×竄→改ざん 口×腔→口こう
      (省略)
  2 常用漢字表中の,音が同じで,意味の似た漢字で書きかえる。
    たとえば
     車×輛→車両 ×煽動→扇動 ×碇泊→停泊 編×輯→編集
     ×哺育→保育 ×抛棄→放棄 ×傭人→用人 ×聯合→連合
     ×煉乳→練乳
  3 同じ意味の漢語で言いかえる。
   ア 意味の似ている,用い慣れたことばを使う。
     たとえば(一部省略)
      ×彙報→雑報 印×顆→印形 改悛→改心
   イ 新しいことばをくふうして使う。
     たとえば
      ×聾学校→口話学校 ×罹災救助金→災害救助金 ×剪除→切除
      ×毀損→損傷 ×擾乱→騒乱 ×溢水→出水 ×譴責→戒告
      ×涜職→汚職
  4 漢語をやさしいことばで言いかえる。
    たとえば(一部省略)
     隠×蔽する→隠す ×庇護する→かばう ×牴触する→ふれる
     漏×洩する→漏らす 破×毀する→破る ×酩×酊する→酔う
     ×趾→あしゆび
2 かなは,ひらがなを用いることとする。かたかなは特殊な場合に用いる。
   注 1 地名は,さしつかえのない限り,かな書きにしてもよい。
     2 事務用書類には,さしつかえのない限り,人名をかな書きにしてもよい。
     3 外国の地名・人名および外来語・外国語は,かたかな書きにする。
     4 左横書きに用いるかなは,かたかなによることができる。
3 (省略)


3 法令の用語用字について


1 法令の用語用字についても,特にさしつかえのない限り,「1 用語について」および「2 用字について」に掲げた基準による。
2 法令の一部を改正する場合および法令名を引用する場合には,特に,次のような取り扱いをする。
 (1) 法令の一部を改正する場合について
  1 文語体・かたかな書きを用いている法令を改正する場合は,改正の部分が一つのまとまった形をしているときは,その部分は,口語体を用い,ひらがな書きにする。
  2 にごり読みをすべきかなに,にごり点をつけていない法令を改正する場合は,改正の部分においては,にごり点をつける。
  3 常用漢字表の通用字体を用いていない法令を改正する場合は,改正の部分においては,常用漢字表の通用字体を用いる。
  4 旧かなづかいによる口語体を用いている法令を改正する場合は,改正の部分においては,現代仮名遣いを用いる。
  5 (省略)
 (2) 法令名を引用する場合について
    題名のつけられていない法令で,件名のある法令を引用する場合には,件名の原文にかかわらずその件名はひらがなおよび現代仮名遣いによる口語体を用い,漢字は,常用漢字表による。


4 地名の書き表わし方について


1 地名はさしつかえのない限り,かな書きにしてもよい。地名をかな書きにするときは,現地の呼び名を基準とする。ただし,地方的ななまりは改める。
2 地名をかな書きにするときは,現代仮名遣いを基準とする。(ふりがなの場合も含む。)
3 特に,ジ・ヂ・ズ・ヅについては,区別の根拠のつけにくいものは,ジ・ズに統一する。
4 さしつかえのない限り,常用漢字表の通用字体を用いる。常用漢字表以外の漢字についても,常用漢字表の通用字体に準じた字体を用いてもよい。


5 人名の書き表わし方について


1 人名もさしつかえのない限り,常用漢字表の通用字体を用いる。
2 事務用書類には,さしつかえのない限り,人名をかな書きにしてもよい。人名をかな書きにするときは,現代仮名遣いを基準とする。


第2 文体について


1 公用文の文体は,原則として「である」体を用いる。ただし,公告・告示・掲示の類ならびに往復文書(通達・通知・供覧・回章・伺い・願い・届け・申請書・照会・回答・報告等を含む。)の類はなるべく「ます」体を用いる。
   注 1 「だ,だろう,だった」の形は,「である,であろう,であった」の形にする。
     2 「まするが,まするけれども」は,「ますが,ますけれども」とする。「ますれば,くださいませ(−まし)」の表現は用いない。
     3 打ち消しの「ぬ」は,「ない」の形にする。「ん」は,「ません」のほかは用いない。「せねば」は,「しなければ」とする。
2 文語脈の表現はなるべくやめて,平明なものとする。
   注 1 口語化の例
      これが処理→その処理
      せられんことを→されるよう
      ごとく・ごとき→のような・のように
      進まんとする→進もうとする
      貴管下にして→貴管下で(あって)
     2 「おもなる・必要なる・平等なる」などの「なる」は,「な」とする。ただし,「いかなる」は用いてもよい。
     3 「べき」は,「用いるべき手段」「考えるべき問題」「論ずべきではない」「注目すべき現象」のような場合には用いてもよい。「べく」「べし」の形は,どんな場合にも用いない。「べき」がサ行変格活用の動詞に続くときには,「するべき」としないで「すべき」とする。
     4 漢語につづく「せられる,せさせる,せぬ」の形は,「される,させる,しない」とする。「せない,せなければ」を用いないで,「しない,しなければ」の形を用いる。
     5 簡単な注記や表などの中では,「あり,なし,同じ」などを用いてもよい。
      例 「配偶者……あり」
        「ムシバ……上1,下なし」
        「現住所……本籍地に同じ」
3 文章はなるべくくぎって短くし,接続詞や接続助詞などを用いて文章を長くすることをさける。
4 文の飾り,あいまいなことば,まわりくどい表現は,できるだけやめて,簡潔な,論理的な文章とする。
  敬語についても,なるべく簡潔な表現とする。
   注 1 時および場所の起点を示すには,「から」を用いて,「より」は用いない。「より」は,比較を示す場合にだけ用いる。
      例 東京から京都まで
        午後1時から始める。
        恐怖から解放される。
        長官から説明があった。
     2 推量を表わすには「であろう」を用い,「う,よう」を用いない。「う,よう」は意志を表わす場合にだけ用いる。
      例 役に立つであろう(推量)
        そのように思われるであろうか(推量)
        対等の関係に立とうとする(意志)
        思われようとして(意志)
     3 並列の「と」は,まぎらわしいときには最後の語句にもつける。
      例 横浜市と東京都の南部との間
     4 「ならば」の「ば」は略さない。
5 文書には,できるだけ,一見して内容の趣旨がわかるように,簡潔な標題をつける。また,「通達」「回答」のような,文書の性質を表わすことばをつける。
   注 例 公団の性質に関する件→公団の性質について(依命通達)
       閣議付議事項の取り扱いについて→1月27日閣甲第19号第8項の責任者について(回答)
6 内容に応じ,なるべく箇条書きの方法をとりいれ,一読して理解しやすい文章とする。


第3 書き方について


 執務能率を増進する目的をもって,書類の書き方について,次のことを実行する。
1 一定の猶予期間を定めて,なるべく広い範囲にわたって左横書きとする。
2 左横書きに用いるかなは,かたかなによることができる。
3 左横書きの場合は,特別の場合を除き,アラビア数字を使用する。
   注 1 横書きの文章の中でも「一般に,一部分,一間(ひとま),三月(みつき)」のような場合には漢字を用いる。
       「100億,30万円」のような場合には,億・万を漢字で書くが,千・百は,たとえば「5千」「3百」としないで,「5,000」「300」と書く。
     2 日付は,場合によっては,「昭和24.4.1」のように略記してもよい。
     3 大きな数は,「5,000」「62,250円」のように三けたごとにコンマでくぎる。
4 タイプライタの活用を期するため,タイプライタに使用する漢字は,常用漢字表のうちから選んださらに少数の常時必要なものに限り,それ以上の漢字を文字盤から取り除くことなどに努める。ぜひとも文字盤にない漢字を使用する必要がある場合には,手書きする。
5 人名・件名の配列は,アイウエオ順とする。
   注 1 文の書き出しおよび行を改めたときには1字さげて書き出す。
     2 句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる。事物を列挙するときには「・」(なかてん)を用いることができる。
     3 同じ漢字をくりかえすときには「々」を用いる。
     4 項目の細別は,たとえば次のような順序を用いる。
        (横書きの場合)第1 1 (1) ア (ア)
                第2 2 (2) イ (イ)
                第3 3 (3) ウ (ウ)
        (縦書きの場合)第一 一 1 (一) (1) ア
                第二 二 2 (二) (2) イ
                第三 三 3 (三) (3) ウ
     5 文章のあて名は,たとえば「東京都知事殿」「文部大臣殿」のように官職名だけを書いて,個人名は省くことができる。





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