[親族の意義] 親族とは,@6親等内の血族・A配偶者・B3親等内の姻族をいう(民法725条)。ここにいう血族・配偶者・姻族とは何か,また,親族の範囲はどこまでかを,TVアニメ「サザエさん」でおなじみの磯野家をモデルとして明らかにしよう。まず,波平さんと舟さんが結婚し,その間に長女サザエさん,長男カツオくん,次女ワカメちゃんという三人の子が生まれた。そして,サザエさんがマスオさんと結婚し,その間にタラちゃんという男の子が生まれた。なお,サザエさんたちの従兄弟姉妹(いとこ)にノリスケさんがいて,ノリスケさんとタイコさんとの間の子がイクラちゃんである。
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舟 ─┬─波 平 波平の妹─┬─ ○
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マスオ─┬─サザエ カツオ ワカメ ノリスケ─┬─ タイコ
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タ ラ イクラ
[血族] 上図でマスオさんとタイコさんを除いた人たち,すなわち,サザエさん,波平さん,舟さん,カツオくん,ワカメちゃん,タラちゃん,ノリスケさん,そして,イクラちゃんは,みんな血がつながっている。このように血縁のある関係を「血族」という。また,血族には,自然の血縁関係がある場合だけでなく,法律上,血縁関係にあると擬制する場合も含まれる。前者を自然血族といい,後者を法定血族という。法定血族関係が生じるのは養子縁組をした場合のみである。もし,マスオさんが波平さんや舟さんと養子縁組をしていれば,「養子と養親及びその血族との間においては,養子縁組の日から,血族間におけると同一の親族関係を生ずる。」(民法727条)ので,マスオさんもこれらの人たち全員と血族の関係にあるということになる。
※ なお,俗にマスオさんのような人を婿養子ということがある。しかし,婿養子というのは婚姻と養子縁組とを併せたもので,戦前の民法(昭和22年改正前)にはあったが現行法上にはない制度である。現行法上では,婚姻と養子縁組を同時にすることで同様の目的を達することができるが,養子は養親の氏を称することになっているので(民法810条本文),フグ田という氏を称しているマスオさんは,波平さんや舟さんの養子ではないのである。
[直系と傍系] 血族には,直系と傍系の区別がある。波平さんと舟さん→サザエさん→タラちゃんというように血の流れが直下している場合を「直系」血族といい,カツオくん・ワカメちゃん・タラちゃんのように波平さんと舟さんから枝分かれしている場合を「傍系」血族という。
[尊属と卑属] また,血族には,尊属と卑属という区別もある。サザエさんからみて波平さんや舟さんのように,上の世代に当たる場合を「尊属」といい,サザエさんからみてタラちゃんのように,下の世代に当たる場合を「卑属」という。なお,タラちゃんからみてカツオくんやワカメちゃんは尊属であり,傍系であっても尊属と卑属とがある。しかし,サザエさん・カツオくん・ワカメちゃんの間ように同世代の傍系は,尊属でも卑属でもない。
[親等] 親等は,直系の場合には,その世代数を数えて定める(民法726条1項)。タラちゃんからみてマスオさんやサザエさんは1世代であるから,1親等の血族であり,また,波平さんや舟さんは2世代であるから,2親等の血族である。傍系の場合には,同一の始祖までさかのぼり,また,その始祖から相手方まで下るまでの世代数による(民法726条2項)。タラちゃんからみて,カツオくんやワカメちゃんは,同一の始祖である波平さんや舟さんまでが2世代,そこから1世代下り,合計3世代であるから,3親等の血族である。
このようにして,民法が親族の範囲として定める「6親等内の血族」というのは相当に広い。ノリスケさんは,波平さんの妹の子であるから,サザエさんとノリスケさんとは従兄弟姉妹(いとこ)ということになる。そうすると,タラちゃんとノリスケさんの子のイクラちゃんとが6親等の傍系血族である。これに対し,6親等の直系血族に会ったことがある人はそうはいないだろう。17歳で子を産み続けた家系でさえ,6親等目の子孫が生まれるまでに更に102年かかるのだから。
[配偶者] 次に,サザエさんとマスオさんとは夫婦の関係にある。このように法律上の夫婦の一方からみてその他方を「配偶者」という。ここでいう夫婦とは,法律上の夫婦のことで,夫婦として暮らしているけれど戸籍の届出を怠っている,いわゆる内縁の妻や夫は,「配偶者」に含まれない。配偶者には,直系と傍系の区別もなく,また,親等もない。
[姻族] さらに,今度はマスオさんからみてサザエさんの血族(波平・舟・カツオ・ワカメ),すなわち配偶者の血族を「姻族」という。姻族にも,直系と傍系の区別及び直系と傍系の区別があり,また,親等の計算方法も,配偶者から数えていけばあとは血族の場合と同様である。例えば,マスオさんからみて(すなわちその配偶者であるサザエさんから数えて),波平さんや舟さんは1世代であるから,1親等の姻族であり,また,カツオくんやワカメちゃんは,同一の始祖である波平さんや舟さんまでが1世代,そこから1世代下り,合計2世代であるから,2親等の姻族である。そして親族の範囲の範囲に含まれる姻族は3親等内までであるから,マスオさんとその4親等の姻族に当たるノリスケさんとは,親族ではないということになる。
[親族関係の重複] ところで,例えばマスオさんが波平さんや舟さんと養子縁組をしていた場合には,ちょっと複雑な親族関係が生じる。サザエさんとマスオさんとは,配偶者の関係にあるだけでなく,双方とも波平さんや舟さんの子(実子と養子)ということになるから,兄弟姉妹の関係でもあるのだ。すなわち,この場合には,サザエさんとマスオさんとの関係は,配偶者の関係であるとともに傍系血族2親等の関係でもあることになる。もし,タラちゃんが波平さんや舟さんと養子縁組をした場合には,タラちゃんとサザエさんやマスオさんとは,親子であるとともに兄弟姉妹の関係でもあることになる。我が民法は,養子と養親及びその血族との間の親族関係の発生を規定した民法727条があるだけで,実親及びその血族との親族関係の消滅を規定した条文を置いていないため(なお,後に述べる特別養子を除く。),このような重複した親族関係が生じるのである。
[親族の範囲と効果] 以上の親族の範囲は,これを明らかにしたからといって,法律効果としては画一的なものが生じるわけではない。例えば,婚姻や縁組の要件に違反した場合にその当事者の親族に婚姻や縁組の取消しを請求する権利や,親が親権を濫用した場合にその子の親族に親権喪失の宣告の請求をする権利などは,すべての親族に認められているのだけれども,後見開始の審判を請求する権利や近親婚が禁止される血族の範囲・扶養義務者の範囲,更に相続人の範囲などは,別途,その範囲が定められている。そうだとすると,親族の範囲を画一的に定めた民法725条は,余り意味のある規定ではなく,しかも,このような規定は,外国の立法にも例のないものらしい。そこで,民法725条を廃止すべきだという主張がされている。ただし,家族法を学ぶ上では基礎の基礎として重要なので,是非マスターしておこう。
親族に生じる民法上の効果としては,表(筆者注:あとで作る。)に掲げてあるとおり多数の規定が置かれているが,これをいちいち丸暗記する必要はない。相続及び扶養が最も重要なものだという程度を覚えておけば十分である。ここでは,親族的互助義務といわれているものを取り上げよう。
[親族間の互助義務] 民法は,「直系血族及び同居の親族は,互に扶け合わなければならない。」(民法730条)という規定を置いている。しかし,扶養に関しては,民法877条以下に別途規定されているので,本条から,扶養義務が引き出されるわけではない。そうすると,本条は親族的互助義務を定めているがこれは訓示規定にとどまり,余り意味のない規定だということになる。昭和22年に家族法が改正された際に個人の尊重という憲法の精神から「家」の制度が廃止されたのだが,この規定は,これに反対する者の提案により妥協の産物として挿入されたものらしい。そこで,本条も評判のよいものではなく,廃止論が強い。