AIMONのホームページへ戻る


刑法総論講義ノート


AIMON(C)2001/03/26


2001年(平成13年)03月26日 初 版





    第1編 刑法の全体構造


   第1章 刑法の基礎理論


  第1節 刑法とは何か



一 刑法とは
 刑法とは,「犯罪」と「刑罰」に関する法である。

二 刑罰とは   ……重大な人権侵害を伴うもの
 1.刑罰の種類(刑9・10)
  (1) 主 刑:死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留・科料
  (2) 付加刑:没収
   cf. 換刑処分:罰金・科料→労役場留置(刑18),没収→追徴(刑19の2)
 2.なぜ刑罰が科されるか
  (1) 応報刑論:行為者に対する応報として科される(目には目を歯に歯を)。
  (2) 目的刑論:犯罪を予防するために科される。
        @一般予防:一般人が犯罪を犯さないようにするため
        A特別予防:犯罪者が再び犯罪を犯さないようにするため(教育刑)

三 犯罪とは  ……刑罰を科してでも禁圧すべき行為
 (1) 形式的側面
  あらかじめ処罰する旨を法律で定められた行為(違法・責任類型)=構成要件
 (2) 実質的側面
  @ 法によって保護すべき生活利益を侵害する行為(法益侵害) =違法性(客観面)
  →しかし,法益侵害行為であればすべて処罰するというわけにはいかない。
  A 非難されてもやむを得ない事情を有する行為(非難可能性) =責 任(主観面)

 =「犯罪」とは,「構成要件」に該当し,「違法」かつ「有責」な行為である。

<犯罪の概念図>

  <原則> ┌───────────── 構 成 要 件 ─────────────┐
       │                 │                 │
       │【客観面・法益侵害(違法)】   │【主観面・非難可能性(責任)】  │
       │                 │                 │
       │(客体)       (主体)  │(目的)             │
       │                 │                 │
       │ 結 果 ←───── 実行行為 │故意〜客観的構成要件の認識・認容〜│
       │                 │                 │
       │      因果関係       │                 │
       └─────────────────┴─────────────────┘

                ↑                 ↑
               類型化                │
                │                 │
                                  │
  <例外> ┌───── 違 法 性 ─────┐        │
       │                 │        │
       │ 【違法性阻却事由の有無】    │        │
       │                 │        │
       │ 正当行為(35)        │        │
       │                 │        │
       │ 正当防衛(36)緊急避難(37)│        │
       │                 │        │
       │ 被害者の承諾          │        │
       └─────────────────┘        │
                                  │
                                 類型化
                                  │

                         ┌────── 責 任 ──────┐
                         │                 │
                         │ 【責任阻却事由の有無】     │
                         │                 │
                         │ 責任能力(39T・41)    │
                         │                 │
                         │ 責任故意(38T)       │
                         │                 │
                         │ 期待可能性           │
                         └─────────────────┘

       ┌───────────── 罪 数 処 理 ─────────────┐
       │                                   │
       │【犯罪の個数】→[一 罪] ……………………本来的一罪        │
       │   │                               │
       │   ↓                               │
       │ [数 罪]→【行為の個数】→[一 個] ……………観念的競合    │
       │          │                        │
       │          ↓                        │
       │        [数 個]→【手段結果の関係】→[あ り] …牽連犯 │
       │                  │                │
       │                  ↓                │
       │                [な し] ………………………併合罪 │
       └───────────────────────────────────┘


  第2節 刑事手続の流れ


一 捜査と公訴

 1.犯罪の発生
  (ケース1) Aは,Bを殴打してけがをさせた。
  (ケース2) Aは,B及びCに対し毒を飲ませて死亡させた。
  (ケース3) Aは,B宅に侵入し,金庫の中から現金を盗み取った。

 2.捜 査
  (1) 捜査の端緒:現認・告訴・告発・自首などによって捜査が開始する。
  (2) 捜査の目的:公判の準備のため
  (3) 捜査の実行
    @ 証拠の蒐集    (捜索・押収)
    A 被疑者の身柄の確保(逮捕・勾留)
  (4) 微罪処分

 3.公 訴
  (1) 起訴便宜主義 :捜査が終結すると検察官が起訴するか不起訴とするかを決定する。
  (2) 起訴状一本主義:裁判官の予断を廃除するため
  (3) 親告罪    :告訴権者の告訴がなければ,起訴することができない犯罪
   @ 被害が軽微な場合 …過失傷害罪・器物損壊罪
   A 被害者の名誉のため…強姦罪・名誉毀損罪・侮辱罪
   B 親族間による犯罪(法は家庭に立ち入らない)…親族相盗例(窃盗・横領罪等)
                           cf. 強盗罪は親告罪ではない。

二 公判の審理と裁判

 1.犯罪の認定
  (1) 構成要件該当性(違法性と責任の類型化)  …刑法各論の中心部分
   @ 客体・結果  :各構成要件の予定する法益侵害が発生したか
   A 主体・実行行為:法益侵害の危険性を有する行為を行ったか
   B 因果関係   :実行行為と結果との間に一定の関係があるか
   C 故意・(過失):罪を犯す意思(客観的構成要件の認識)があるか

  * 犯人の複数(共犯)
   @ 共同正犯   :二人以上共同して犯罪を実行した者(刑60)
   A 教唆犯    :人を教唆して犯罪を実行させた者(刑61)
   B 従犯(幇助犯):正犯を幇助した者(刑62)

  (2) 違法阻却事由(法益侵害を上回る利益=社会的相当性)
   @ 正当行為   :医療行為・正当業務行為・自救行為
   A 緊急行為   :正当防衛(「不正」対「正」)・緊急避難(「正」対「正」)
   B 被害者の承諾 :

  (3) 責任阻却事由(非難可能性)
   @ 責任能力   :心神喪失(cf. 心神耗弱)・刑事未成年
   A (故意・過失)
   B 期待可能性  :他に適法な行為を行い得る可能性

  (4) 罪数処理(一罪か数罪か・数罪の処断)
   @ 本来的一罪:一罪しか成立しないもの(単純一罪・法上競合・包括一罪)
          →成立した一罪で処断する。
   A 科刑上一罪:数罪が成立するが,刑を科す上では一罪として扱われるもの
          →成立した数罪のうち,最も重い罪で処断する(刑54T)。
     A−1 観念的競合:数罪が「一個の行為」で行われた場合
     A−2 牽連犯  :数罪が「目的手段又は原因結果」の関係にある場合
   B 併合罪  :数罪が成立した場合で,観念的競合・牽連犯に当たらないもの
          →最も重い刑の長期を1.5倍する(刑47・単一刑加重主義)。
   cf. 独立数罪 :禁錮以上の確定判決を経た数罪
          →それぞれ別個に処断する。

 2.刑の適用(法定刑と処断刑)
  (1) 裁判官は,条文に定められた「法定刑」に加重減軽を加えて「処断刑」を決定する。
  (2) 加重減軽の順序(刑72)
         @併合罪加重(刑45〜53)
         A法律上の減軽(刑42,自首など)
         B累犯加重(刑56〜59)
         C酌量減軽(刑66・67)

 3.判決の言渡し
  (1) 実刑判決   :処断刑の範囲内で具体的に決定された「宣告刑」を言い渡す。
  (2) 執行猶予付判決:刑の言渡しの際に,一定の要件のもとに,情状により執行を猶予することができる(刑25)。
  (3) 刑の免除   :有罪であるが,刑を科さないとするもの…刑の宣告をしない。

三 刑罰の執行と刑の消滅

    ┌─────────────── 刑 の 執 行 ───────────────┐
    │ ┌────┐           ┌─────────┐   ┌────┐ │
    │ │刑の執行│           │ 刑の執行猶予  │   │刑の免除│ │
    │ └────┘           └─────────┘   └────┘ │
    │ │    │──┐        │         │     │    │
    │ │    │  ↓        │執行猶予期間の経過│   (+2年)  │
    │ │執行終了│ 刑の執行の免除   └─────────┘     │    │
    │ └────┘└───────┘    │             │    │
    │   │     │          │             │    │
    │ (禁錮以上は+10年)        │             │    │
    │ (罰金以下は+5年)         │             │    │
    │   ↓     ↓          ↓             ↓    │
    │───────────────────────────────────────│
    │       刑の消滅=「刑の言渡しの効力」の失効(法律上の復権)      │
    └───────────────────────────────────────┘

 1.刑の執行
  (1) 各種の刑の執行(刑11〜21)
  (2) 刑の執行の免除(刑5,恩赦8):刑の言渡しはあるが,刑の執行を行わない。
  (3) 仮出獄(刑28〜30)

 2.刑の消滅(法律上の復権,刑34の2)…各種の資格制限がなくなる。
   @ 刑の執行終了+禁錮以上10年・罰金以下5年経過(刑34の2T)
     (刑の執行終了≒刑の執行の免除,仮出獄+刑期満了,刑の時効完成)
   A 刑の執行猶予期間経過(刑27)
   B 刑の免除判決確定+2年経過(刑34の2U)


  第3節 刑法の機能


    法益保護機能 ←→ 自由保障機能


  第4節 罪刑法定主義


 1.意 義:犯罪と刑罰をあらかじめ法律で定める。

 2.目 的:我々の行動の自由を保障する。

 3.内 容
  (1) 「あらかじめ」………事後法の禁止
  (2) 「法律で」……………法律主義

 4.派生原則
  (1) 慣習刑法の排除…………条文の文言を解釈する際に慣習を考慮することは許される。
  (2) 類推解釈の禁止…………被告人に有利となる類推解釈は許される。
  (3) 絶対的不定期刑の排除…刑の長期と短期とが定まっている「相対的」不定期刑は認められる(少年52)。
  (4) 刑罰法規不遡及の原則
   @ 罪刑法定主義と刑法6条の関係
     <行為時>  <裁判時>
      適法○…………犯罪×   =行為時 →     罪刑法定主義
      軽い刑×………重い刑×× =行為時 →刑法6条&罪刑法定主義
      重い刑××……軽い刑×  =裁判時 →刑法6条
      犯罪×…………適法○   =裁判時 →刑法6条の趣旨(なお,限時法の理論)
   A 刑法6条
    「犯罪後」:実行行為終了後(監禁罪など継続犯の実行継続中は犯罪後ではない。)
    「刑の変更」:主刑の変更のみ(×=当たらない。)
           ×没収の条件
           ×親告罪→非親告罪
           ×執行猶予の条件
           △労役場留置(形式的には刑の変更ではないが,実質的には刑の変更といえるから,刑法6条の趣旨により軽い刑を適用する。)
  (5) 明確性の原則……………刑罰法規が法定されていても,その文言が不明確では法定していないのと同じことになるから。

5.罪刑法定主義と他の原則
 (1) 一事不再理の原則:一度処罰される危険にさらされたならば重ねて刑事上の責任を問うてはならないという刑事裁判における原則(二重の危険の禁止)
 (2) 責任主義    :行為者に非難が可能な場合にのみ処罰するという原則


   第2章 刑法の場所的適用範囲


一 意 義

二 立法上の諸原則
 (1) 属地主義
 (2) 属人主義
 (3) 保護主義
 (4) 世界主義

三 現行刑法の立場
 (1) 国内犯(刑1,属地主義)
  @ 「日本国内」(犯罪地):犯罪構成事実の一部又は全部が日本国内にあれば足りる。
                中間影響地であっても国内犯
  A 共犯の場合
     正犯者:正犯行為地
     共犯者:正犯行為地+共犯行為地
  B 日本船舶・日本航空機内……旗国主義(属地主義の延長)

 (2) 国民の国外犯(刑3,属人主義)
 (3) すべての者の国外犯(刑2,保護主義)
 (4) 公務員の国外犯(刑4,保護主義・属人主義)
 (5) 条約による国外犯(刑4の2,世界主義)

   第3章 刑法理論の歴史(参考)


1.近代以前の刑法(干渉性・恣意性・身分性・過酷性)
   <近代以前>              <ベッカリーア>
 干渉性:人の内面にまで干渉     →社会・市民の外形的な侵害のみを犯罪とすべき
 恣意性:(罪刑専断主義)      →成文法を公表すべき(罪刑法定主義)
 身分性:身分による不平等な刑罰   →だれに対しても平等に取り扱うべき
 過酷性:死刑を中心とする残虐な刑罰 →市民の感覚がまひし効果がない(罪刑の均衡)

2.近代の刑法
 (1) 前期旧派(前期古典派)
  @ カント
   自由意思論  :犯罪は,個人の自由意思に基づいて犯される。
   法と道徳の峻別:→フォイエルバッハ
   絶対的応報刑 :→ヘーゲル「犯罪は法の否定であり,刑罰は否定の否定である。」
  A フォイエルバッハ
   法と道徳の峻別:権利侵害のみが犯罪(干渉性の排除)
   心理強制説  :犯罪によって得られる快楽より大きい刑罰が科せられることを明示
           →心理的な強制により犯罪が予防できる。→罪刑法定主義の父

 ⇒ 産業革命による都市への人口の集中
   →貧困による犯罪やアルコール中毒者による犯罪・少年犯罪の増加,犯罪の常習犯化

 (2) 新派(近代派)………………目的刑論・意思決定論・性格責任論・主観主義
  @ ロンブローゾ:決定論(生来性犯罪人説…犯罪者は生まれつき)
  A フェリー
   社会防衛論  :生物学的・社会的原因から生ずる犯罪から社会を防衛するための手段
   性格責任論  :社会にとって危険な性格を有する者は刑事処分を甘受すべき(決定論)
  B リスト
   改善刑    :不定期刑
   犯罪徴表説  :人の内心は現代科学をもってしても分からない。
           →そこで法に規定した犯罪の徴表として現れた限りにおいて刑を科す。

 (3) 後期旧派(後期古典派)……応報刑論・自由意思論・道義的責任論・客観主義
  ○ ヘーゲル学派:道義的責任論(法と道徳の近接・国家主義的)

3.日本おける現代の刑法
 (1) ドイツ刑法学の影響         <刑罰論>     <犯罪論>
  新派:牧野英一・木村亀二       教育刑論      主観的犯罪論
  旧派:大場茂馬・小野清一郎・滝川幸辰 応報刑論      客観的犯罪論

 (2) 旧派内部での対立
  ・団藤重光(大塚・大谷)  相対的応報刑論   客観的犯罪論(社会倫理を重視)
  ・平野龍一(西田・前田)  抑止刑論(教育刑) 客観的犯罪論(法益侵害を重視)


    第2編 犯 罪



   第1章 犯罪の成立要件



   第2章 構成要件該当性



  第1節 構成要件の概念


一 構成要件の意義

二 構成要件の種類

三 構成要件の要素

 (1) 客体と結果
  @ 客体:公務執行妨害罪
  A 結果的加重犯
  B 犯罪の分類
   結果犯・挙動犯
   侵害犯・危険犯
   即成犯・継続犯・状態犯

 (2) 主体と実行行為
  @ 主体:身分犯(賄賂罪など)
  A 実行行為:法益侵害の危険性を有する行為

 (3) 因果関係
    実行行為と結果との関係

 (4) 故意・過失
  @ 故意:罪を犯す意思(客観的構成要件の認識)
  A 過失:結果発生の予見可能性
  B 目的:通貨偽造罪など


  第2節 構成要件該当性


一 実行行為

 1.実行行為の意義と実行の着手
  (1) 実行行為の意義   :各構成要件の予定する法益侵害の危険性のある行為
  (2) 実行の着手(刑43):法益侵害の現実的危険性を有する行為を開始すること

   予備行為(予備罪) →実行行為(未遂犯) →法益侵害結果の発生(既遂犯)
             ↑          ↑
           <実行の着手時期>  <既遂時期>

 2.不作為犯 :不作為によって犯罪を実現する場合
  (1) 真正不作為犯 :構成要件自体が不作為で規定されているもの(不退去罪)
  (2) 不真正不作為犯:作為で規定された構成要件を不作為で実現する場合
             問題となる犯罪:殺人罪・詐欺罪・放火罪・死体遺棄罪
                     保護責任者遺棄罪など
   *Aは,自己の乳児が死んでもやむを得ないと思いつつ,殊更に授乳を怠って,餓死させた。

     すべての不作為を犯罪とすると処罰範囲が広すぎる。
      ↓
     そこで,
      行為者に作為義務があること
      作為が可能かつ容易であること
     という二つの要件を満たす場合にのみ不作為犯が成立する。

     <作為義務の有無>
      @法令…………………………・親の子に対する監護義務(民820)
      A契約・事務管理……………・病人等の引受け
      B慣習・条理…………………・売主の買主に対する告知義務(抵当権設定など)
      C先行行為……………………・自ら引き起こした行為(失火など)

 3.間接正犯 :他人を道具として犯罪を実現する場合
  *医師Aが,情を知らない看護婦Bに対し患者Cに注射するよう指示して,毒入りの注射器を手渡したところ,Bがそれと気づかずにCに注射した結果Cが死亡した。
   →看護婦Bは,医師Aの道具にすぎない(=ピストルの弾と同じ)。

  <間接正犯となる場合>
   @ 責任無能力者の利用
   A 反抗を抑圧された者の利用
   B 故意や目的を欠く者の利用
   C 他人の正当行為の利用

 4.原因において自由な行為 :自己の責任無能力状態を利用して犯罪を実現する場合
  *飲酒をすると病的酩酊に陥る者が,自己の責任無能力状態を利用して犯罪を実現するつもりで酒を飲み,心神喪失状態で他人を殺害した。

       飲酒行為(責任能力あり)………………殺害行為(責任能力なし)

  <二つの理論構成>
   殺害行為時には責任無能力状態にあるため,処罰できないはず。
     ↓                    (=行為と責任の同時存在の原則)
   しかし,処罰の必要性は高い。
     ↓
   そこで,
    @ 間接正犯理論を準用する立場
      :飲酒行為(原因行為)が実行行為であり,自己の責任無能力を道具と考える。
       しかし,酒を飲んで寝てしまっても,未遂が成立してしまう。
           酒を飲む量が少なければ,心神耗弱にすぎず道具となり得ない。
    A 同時存在の原則を修正する立場
      :結果行為が実行行為であり,責任能力のある飲酒行為時の故意に支配されている限り,結果行為時に責任能力がなくてもよいと考える。
       しかし,責任主義に反する。

二 因果関係

 1.条件関係:その行為がなかったならばその結果が発生しなかったであろうという関係

 2.条件説:(1) 条件関係があれば因果関係を認める立場(従来の判例)
         条件説に立つと因果関係を認める範囲が広すぎる。
         ↓
       そこで,
       (2) 因果関係の中断論:因果の過程で自然的事実や他人の故意ある行為が介入した場合,因果関係が中断すると考える立場
         ↓
       しかし,条件説に立ちつつ因果関係を否定するのはおかしい。

 3.相当因果関係説:条件関係の存在を前提として,その行為からその結果が発生するのが「経験則上相当か否か」を判断する。
  <どのような事情を基礎事情とするか>
  (1) 主観説:行為当時に行為者の認識した事情及び認識し得た事情
  (2) 客観説:行為時に存在した一切の事情及び行為後に生じた予見可能な事情
  (3) 折衷説:行為時に一般人が知り得た事情及び行為者が特に知っていた事情

三 故意・過失(→詳しくは第4章「責任」で説明)

 1.故 意 :罪を犯す意思(刑38T本文)=構成要件該当事実の認識

 2.過 失 :結果の予見可能性


   第3章 違法性


一 違法性阻却の実質的基準

 1.違法性の本質
  (1) 形式的違法論と実質的違法論
   @ 法に違反するから違法(形式的違法論)
   A しかし,どのような行為が違法となるかが明らかでない。
     そこで,違法性の実質は何かが問題(実質的違法論)

  (2) 主観的違法論と客観的違法論(違法性は客観的なものか?)
   @ 主観的違法論(新派)…主観的→精神病者等の行為は違法でない。
   A 客観的違法論(旧派)…客観的

               ┌基準は客観的だが,対象は主観的なものも含む。
               │
               │ →主観的違法要素を認める。(≒倫理規範違反説)
               │
               └基準も対象も客観的

                 →主観的違法要素を認めない。(≒法益侵害説)

  (3) 法益侵害説と社会倫理規範違反説(結果無価値論と行為無価値論)
   @ 法益侵害説    :法益を侵害するから違法
               法益侵害(客観的なもののみ)
               =結果無価値論  (無価値=よくない・悪い)
   A 社会倫理規範違反説:法益を侵害するだけでなく社会倫理規範に反するから違法
               倫理規範に反する行為態様(主観的なものを含む。)
               (規範=「〜すべき」 ←→ 自然法則=「〜である」)
              =行為無価値論
               日本の行為無価値論は二元説(結果無価値+行為無価値)
   B 両説の違い

    結果無価値→         ←行為無価値
     結果……………行為     (意思)

      結果無価値:犯罪を,結果からさかのぼって考えていく。
      行為無価値:犯罪を,行為・さらには意思から考えていく。

    <被害者なき犯罪:他人の法益を侵害しなくても処罰する必要があるか?>
    *Aは,Bに対しわいせつな写真を販売した(わいせつ図画販売罪)
      結果無価値論を徹底すると…だれにも迷惑がかからなければ処罰する必要はない。
      行為無価値論からは…………社会秩序が乱れるから処罰する必要がある。
    cf. やくざの指詰め(→被害者の承諾)

    <未遂犯:法益侵害の危険性は客観的に判断できるか?>
    *Aは,人にピストルを向けた段階で警察官に取り押さえられた。
     →人を殺す意思がある場合 と 人を脅す意思しかない場合
      結果無価値論…およそピストルが人に向けば危険性がある。
             人を殺す意思の有無は殺人未遂罪の「故意」の問題
      行為無価値論…人を殺す意思があるから行為の危険性がある。

    <強制わいせつ罪:行為者にわいせつな傾向(内心)は必要か?>
    *Aは,復讐の目的で,B女に対し,硫酸をかけるぞと脅して,全裸にした。
      結果無価値論…B女の性的自由という法益を侵害している以上,犯罪成立。
      行為無価値論…行為者にわいせつな傾向がなければ,犯罪不成立(判例)。

    <偶然防衛:正当防衛が認められるためには,防衛の意思が必要か?>
    *Aは,Bを背後から殴りつけたところ,偶然,BがCを射殺するところだった。
      結果無価値論…不要・Cの法益を上回る法益(Bの身体)を保護している。
      行為無価値論…必要・Aは,単に暴行の意図しかない。

 2.違法性の判断

 3.違法性阻却の実質的基準
  *Aは,Bが突然襲ってきたので,自己の身を守るため,Bを殴った。
  (1) 社会的相当性説……社会倫理規範に違反しない相当な行為だから
   →いかなる行為が社会的相当性を有するのか?
  (2) 目的説(判例)……正当な目的のための相当な手段だから(→法益衡量説)
   正当な目的 (自己の身を守るため)
   相当な手段 (襲ってきた相手を殴る)
  (3) 法益衡量説………Tbに該当する法益侵害を上回る(同等の)利益が存在するから
   Tb該当行為(襲ってきた相手の身体)
   上回る利益 (自己の生命・身体)

 4.実質的(超法規的)違法阻却と可罰的違法性
  刑法に規定する違法阻却事由以外に違法性は阻却されるか?
  →違法性阻却の実質的基準を満たせば,法の規定がなくても違法阻却を認める(判例)。

         ┌絶対的軽微…構成要件不該当 (一厘事件,ちり紙1枚のスリ)
   可罰的違法性┤
         └相対的軽微…超法規的違法阻却(公務員の労働争議)
                公務員法上は違法であっても,刑法上は正当化される。

二 正当行為(法令行為・業務行為・その他の正当行為)

 1.法令行為
  (1) 懲戒権(民822)
  (2) 現行犯逮捕(私人にも認められる(刑訴213)。)

 2.業務行為
  (1) スポーツ
  (2) 治療行為

 3.その他の正当行為
  (1) 自救行為
   *Aは,偶然,先日自分のカバンを盗んだBを見つけ,その場でカバンを奪い返した。
    (窃盗罪は他人の「占有」する財物を保護法益とする…窃盗犯人にも占有がある。)
    →正当防衛は成立しない(急迫性なし)。
     また,自力救済は原則として禁止される。
     しかし,国家機関による救済を待っていては権利の回復が困難な場合,
     自救行為として違法性が阻却される(ただし,判例は厳格な態度をとる。)
   *<権利行使と恐喝罪> Aは,借金を返済しないBを恐喝して,現金を交付させた。

  (2) 労働争議行為
  (3) 安楽死(→人の死期・心臓停止と脳死)

三 被害者の承諾

 1.被害者の処分可能な法益
  (1) 国家的法益…不可
   *Aは,Bの同意を得て,Bに対する虚偽の告訴をした。
    虚偽告訴罪=国家法益に対する罪(告訴された者の法益+捜査機関の法益)

  (2) 社会的法益…不可
    <ただし,放火罪における構成要件の変化>
    *Aは,一人暮らしのBの承諾を得て,B宅に放火した。
     @ 居住者全員(B)の承諾
      =現住建造物放火罪(刑108)→非現住建造物放火罪(刑109)
     A 居住者全員かつ所有者の承諾
      =非現住建造物放火罪・他人所有(刑109T)→自己所有(刑109U)

  (3) 個人的法益
   @ 自由・名誉・信用・財産に対する罪…構成要件不該当
   A 生命に対する罪:同意殺人罪(刑202)の規定あり。
    <202条の趣旨>
     被害者の同意があれば犯罪は成立しない,と考えると
     →202条は,生命という法益の重要性から「特に処罰」するための規定
     被害者の同意は犯罪の成否に影響しない,と考えると
     →202条は,特別に「軽く」処罰するための規定
   B 身体に対する罪(被害者の承諾が解釈論上問題となるのは傷害罪だけ)
     <採血> 医師Aは,Bの承諾を得て,注射針で採血をした。
     <やくざの指詰め>
     *暴力団員Aは,仁義に反した同僚Bの依頼を受けて,小指を切断した。
      結果無価値論…被害者が自己の法益を放棄している以上,不処罰
      行為無価値論…倫理秩序に反するから,傷害罪成立

 2.承諾権者
  (1) 未成年者誘拐罪…未成年者の承諾があっても違法性は阻却しない。
   →保護法益は,未成年者自身の行動の自由+親権者の利益=親権者の承諾なし
  (2) 強姦罪…13歳未満の者の承諾があっても違法性は阻却しない。
   →承諾の意味を理解できない未成熟な者を保護するため(パターナリズム)

 3.瑕疵ある承諾
  (1) 違法目的の承諾
   *Aは,Bの保険金詐欺目的での承諾を得てBの自動車に追突しけがをさせた。
    →違法目的での承諾は認められない。
  (2) 錯誤に基づく承諾
   *Aは,追死すると偽って,心中を装い,Bの承諾を得て毒を飲ませて死亡させた。
    →真摯な承諾が必要(同意殺人ではなく,単なる殺人罪)

四 正当防衛

 1.正当化原理
  (1) 法確証の原理:「法は不法に屈する必要はない」  →権利というよりも義務的
  (2) 自己保存本能:人間の自己保存本能に照らして当然 →責任阻却的な考え方
  (3) 法の自己保全:国家による法益保護が期待できない場合に,
           私人による権利保護を認めることにより,法の自己保全を図る。
  (4) 優越的利益 :緊急時に,いずれかの法益を犠牲にせざるを得ないときは,
           利益の優越するものを残す(同等の場合も処罰する必要はない。)。

 2.要 件
  (1) 急迫性
   @ 意義
    過去の侵害(急迫ではない→自救行為)
    現在の侵害(=正当防衛)
    未来の侵害(忍び返し・侵害が現実化した場合に功を奏するのであればよい。)
   A 急迫性と防衛者の認識
    <侵害を予見していた場合>
     単なる予見だけでは,急迫性は失われない(正当防衛が認められる。)
    <積極的加害意思>
     侵害の予見+積極的に害を加える意思を持っていたときは急迫性が失われる。
   B 自ら招いた侵害
    <挑発防衛>
     正当防衛権の濫用
     原因において違法な行為

  (2) 不正の侵害
   @ 「不正」の意義
    *精神病者等に対する正当防衛 →認められる
     不正=違法説→客観的違法論(精神病者等の行為も違法)
     不正≠違法説→Aにとって不正であればよい。
   A 対物防衛(不正の侵害は人間の行為に限られるか。)
    *Aは,Bの飼い犬が突然襲ってきたので,けりつけて傷害を負わせた。
     不正=違法説→人の行為に限られる。Bに故意・過失があれば不正の侵害
     不正≠違法説→人の行為に限らない。Aにとって不正であればよい。
   B けんかと正当防衛
    *Aは,Bと素手でけんかをしていたところ,Bが短刀で切りかかってきたので,近くにあった木の棒でBを殴って傷害を負わせた。
     →けんか両成敗
      しかし,質の異なる新たな法益侵害の場合 …正当防衛が認められる。

  (3) 自己又は他人の権利
   @ 他人の権利の防衛も可
   A 国家・社会的法益の場合も可(ただし要件は厳格)

  (4) 防衛するため
   <防衛の意思>
   @ 要否:必要説(→違法性の本質参照)
   A 内容:防衛の「目的」までは不要,防衛の「認識」で足りる。
        →(他の要件を満たす限り)逆上・興奮による防衛行為も認められる。
   B 積極的加害意思と防衛の意思(口実防衛)
    防衛行為前…積極的加害意思(急迫性)の問題
    防衛行為時…防衛の意思の問題

  (5) やむを得ずにした行為
   @ 必要性(防衛行為を行う必要があるか):補充性までは要求されない。
   A 相当性(防衛の程度を超えていないか):法益権衡までは要求されない。

 3.効 果:違法性が阻却される(=犯罪不成立)。

 4.過剰防衛(犯罪は成立…「情状」による刑の減免)
  *Aは,Bが小銭入れを盗もうとしたので,殴り殺した。
  <なぜ減免が認められるか>
   違法減少説:不正の侵害を行っている者Bの法益の価値は減少している。
   責任減少説:急迫の侵害に対するものである以上,Aの非難可能性が減少する。

 5.誤想防衛(違法性はあり…故意犯の成否の問題)
  *Aは,Bがあいさつをしようとして手を上げたのを見て,殴られるものと誤信して,Bを殴ってけがを負わせた。
   <故意犯の成否>
    @ 客観的構成要件の認識があること
    A 違法阻却事由であると認識していないこと
      →正当防衛だと思っていれば,罪を犯す意思(故意)はない。
       ただし,防衛の程度を超えていると認識していれば故意がある。

 6.誤想過剰防衛
  (1) 態 様
   *Aは,Bが突然暴行を加えてきた(と誤信したAB)ので,Bに対し(暴行@A・殺人B)の意思で防衛行為を行ったところ,Bが死亡した。
     <侵害行為> <防衛行為>
   @ 暴行行為あり 暴行のつもりで死亡 (過剰防衛行為を誤信)
   A 暴行と誤信  暴行のつもりで死亡 (侵害行為と過剰防衛行為の両方を誤信)
   B 暴行と誤信  殺人のつもりで死亡 (侵害行為のみ誤信・過剰防衛行為は認識)

  (2) 故意犯の成否(誤想防衛の処理)
   @Aは,自己の行為は正当防衛と誤信している以上,故意は,成立しない(過失犯)。
   Bは,過剰行為を認識しているから,故意犯が成立する。

  (3) 減免の可否(過剰防衛の処理)
   違法減少説からは,不正な侵害のある@のみ減免できる。
   責任減少説からは,急迫な侵害と認識・誤信している以上,@ABすべて減免できる。

五 緊急避難

 1.不処罰根拠
  (1) 違法阻却説
  (2) 責任阻却説
  (3) 二分説

 2.要 件
  (1) 現 在
   「急迫」と同じ
  (2) 危 難(正当防衛との異同)
   「正」対「正」
  (3) 自己又は他人の生命,身体,自由,又は財産
   例示列挙…「自己又は他人の権利」と同じ
  (4) 避けるため
   避難の意思…「防衛するため」と同じ
  (5) やむを得ずにした行為・法益権衡(正当防衛との異同)
   補充性の原則:唯一の手段であることが必要
   法益権衡  :避難行為は,現在の危難を超えてはならない。

 3.効 果 :違法阻却(→不処罰根拠参照)

 4.業務上特別の義務のある者 :緊急避難の規定の適用なし

 5.過剰避難・誤想避難・誤想過剰避難(正当防衛と同じ)


   第4章 責 任


一 責任の意義 :非難可能性

二 責任の本質 :心理的責任から規範的責任へ

三 責任能力

 (1) 意 義  :事物の是非善悪を弁別し,かつ,それに従って行動する能力

 (2) 責任無能力:是非弁別能力,又は,行動制御能力がない場合
  @心神喪失(刑39T) :責任阻却(=犯罪不成立)
  cf. 心神耗弱(刑39U):責任を阻却しない(限定責任能力あり)
               →犯罪が成立した上で,減軽されるにとどまる。
  A 刑事未成年(刑40):満14歳未満

四 故 意

 (1) 意 義:罪を犯す意思(刑38T本文)=構成要件該当事実の表象(+認容)

 (2) 表 象
  @ 意味の認識:「わいせつ」
  A 結果的加重犯の場合:結果の認識は不要

 (3) 認 容
  <未必の故意と認識ある過失の区別>
   認識説と認容説

五 錯 誤

 (1) 事実の錯誤と法律の錯誤
  @ 事実の錯誤:事実を誤認した場合
  A 法律の錯誤:違法なものを適法なものと誤信した場合
     Tb  客観的構成要件の認識  ←事実の錯誤:故意を阻却する。
     R   違法性阻却事由の不認識 ←事実の錯誤:故意を阻却する。
     S   違法性の意識      ←法律の錯誤:故意を阻却しない。

 (2) 法律の錯誤(刑38V)
  自己の行為を適法だと誤信して犯罪を犯した場合
  <違法性の意識は必要か>
   不要説(判例)
   違法性の意識の可能性説(制限故意説)
   必要説(厳格故意説)

 (3) 事実の錯誤(刑38U)
  @ 同一構成要件における錯誤
  <態 様> 甲を射殺しようと思ってけん銃を発射した。ところが,………
   方法の錯誤  :隣にいた乙に当たり,乙が死亡した。
   客体の錯誤  :それは,甲ではなく乙であり,乙が死亡した。
  <理論構成>
  具体的符合説:「その人」という範囲で一致することが必要
        (方法)甲に対する殺人未遂・乙に対する過失致死
        (客体)乙に対する殺人既遂
  法定的符合説:「およそ人」という法定の範囲で一致すれば足りる(判例)。
        (方法)甲に対する殺人未遂・乙に対する殺人既遂
        (客体)乙に対する殺人既遂

    *方法の錯誤で甲・乙の両人が死亡したら?(故意の個数を考慮するか)
      考慮する立場(一故意説):甲に対する殺人既遂・乙に対する過失致死
      考慮しない立場(判例) :甲乙二人に対する殺人既遂
                   観念的競合はこのような場合を予定しているから
 *発展論点:因果関係の錯誤
    窒息死させようとして首を絞めたところ,意識を失ったので死んだものと思い,海へ投げ込んで,でき死させた。
  (A)「首を絞める行為」と「海へ投げ込む行為」を分離しない立場
    Tb客観面:「首を絞める」……実行行為
          「海へ投げ込む」…因果経過:条件関係あり・相当因果関係の範囲内
          「でき死」…………結果発生
    Tb主観面:因果関係の認識は必要か?…いずれの立場でも殺人罪が成立
          必要説:相当因果関係の範囲内であれば「故意」が認められる。
          不要説:故意の成否に,因果関係の認識は不要(判例)
  (B)「首を絞める行為」と「海へ投げ込む行為」を分離する立場
    第1の行為:「首を絞める」……実行行為
          「意識を失う」……結果不発生(=殺人未遂)

    第2の行為:「海へ投げ込む」…過失犯の実行行為
          「でき死」……………結果発生 (=過失致死)

 A 異なる構成要件における錯誤
  軽い罪のつもり→重い罪=重い罪で処罰不可(刑38U)
              <無罪か?それとも,軽い罪で処罰できるか?>
  重い罪のつもり→軽い罪=<無罪か?それとも,いずれかの罪で処罰できるか?>

 <態様その1> 甲を射殺しようと思ってけん銃を発射した。ところが,……
   方法の錯誤:隣にいた甲の飼い犬に当たり,その犬が死亡した。
   客体の錯誤:それは,甲の飼い犬であり,その犬が死亡した。
 <理論構成>
  法定的符合説:「およそ人」という法定の範囲内でしか故意は認められない。
  抽象的符合説:「およそ犯罪」を認識した以上発生した結果について故意が認められる。

 <態様その2> 他人の占有する財物を窃取しようと思って,駅のベンチにおいてあったカバンを持ち去った。ところが,そのカバンは甲が紛失したものだった。
 <理論構成>
  法定的符合説:「およそ他人の財物」という法定の範囲内でしか故意は認められない。
         しかし,構成要件が同質的で重なり合う場合には,
         重なり合いの範囲で故意が認められる。
         →「窃盗罪」と「遺失物横領罪」は,遺失物横領罪の範囲で重なり合う。
  抽象的符合説:「およそ犯罪」を認識した以上発生した結果について故意が認められる。

 B 法定的符合説のまとめ
  ・同一構成要件内 …犯罪が成立+故意の個数を考慮しない
   (甲を殺そうと思ったら,乙が死亡)        …乙に対する殺人罪
   (甲を殺そうと思ったら,乙・丙が死亡)      …乙・丙に対する二つの殺人罪

  ・異なる構成要件 …犯罪は不成立+構成要件の重なり合う範囲内ででは犯罪が成立
   (甲を殺そうと思ったら,甲の飼い犬が死亡)     …不処罰(過失による器物損壊)
   (他人の財物を窃取しようと思ったら,落とし物だった)…遺失物横領罪

六 過失犯

       ┌───────────── 構 成 要 件 ─────────────┐
       │                 │                 │
       │【客観面・法益侵害(違法)】   │【主観面・非難可能性(責任)】  │
       │                 │                 │
       │                 │                 │
       │ 結 果 ←─ 注意義務違反行為 │過失〜結果の予見可能性〜     │
       │                 │                 │
       │    因果関係         │                 │
       └─────────────────┴─────────────────┘

       ┌───── 違 法 性 ─────┐
       │                 │
       └─────────────────┘

                         ┌────── 責 任 ──────┐
                         │                 │
                         └─────────────────┘

 1.過失の処罰 :「法律に特別の規定」が必要(刑38T但書)。
 2.注意義務違反:過失犯の実行行為
 3.予見可能性 :結果の発生を予見することがでる可能性
 4.業務上過失 :行為者に通常人より重い注意義務が課され,このような重い注意義務に違反すること。
 5.重過失   :注意義務違反の程度が著しい場合
 6.信頼の原則 :過失の有無の判断上,交通秩序に従って交通に関与する者は,特別な事情がない限り,他の交通関与者も交通法規その他の交通秩序を守って行動することを信頼してよいとする考え方。

七 期待可能性


   第5章 修正された構成要件



  第1節 未遂犯


一 狭義の未遂犯(刑43条本文)

 1.意 義
  (1) 障害未遂と中止未遂
   @ 障害未遂:狭義の未遂犯
   A 中止未遂:中止犯
  (2) 実行未遂と着手未遂
   @ 実行未遂:ピストルを発射したが致命傷に至らなかった場合など
   A 着手未遂:ピストルを構えたところで逮捕された場合など
  (3) 主観説と客観説(→実行の着手)

 2.要 件
  (1) 実行に着手して
   主観説:犯意の飛躍的表動(新派の立場)
   客観説:(実質的客観説)法益侵害の危険性を有する行為を開始したとき
       (結果説)法益侵害の危険性が発生したとき
            …行為から離れた時点で実行の着手を認める

   <実行の着手が解釈論上問題となるもの>
   間接正犯:利用者標準説 (実行行為を強調する立場)
        非利用者標準説(結果説)
   離隔犯 :(行為の場所と結果の場所が離れる場合…爆発物を郵送した。)
        発送時説
        到達時説(判例)
   原自行為:原因行為時(間接正犯理論の準用)
        結果行為時(同時存在の原則の修正)
   教唆犯 :教唆行為の開始時
        正犯行為の開始時(判例…共犯従属性)
   <実行の着手の具体例>
   窃盗罪 :住居侵入窃盗→物色行為を開始した時(金品に近づいた時)
        土蔵(倉庫)→侵入した時
        スリ→ポケットに触れた時
   強盗罪 :手段としての暴行脅迫を行った時…暴行脅迫がなければ窃取にすぎない。

  (2) これを遂げなかったとき
   @ 結果が発生しなかったとき
   A 因果関係が認められないとき

 3.処分(効果):任意的減軽

二 中止犯(刑43条但書)

 1.意 義:自己の意思により+犯罪を中止した場合
  <必要的減軽免除の根拠>
   政策説      :「後戻りのための黄金の架け橋」
             →しかし,常に「免除」されるわけではない。
   法律説 違法減少説:任意の中止により違法性が減少する。
       責任減少説:任意の中止により責任が減少する。

 2.要 件
  (1) 「自己の意思により」…任意性
    客観説
    主観説 後悔して,同情して,かわいそうになり,などは任意性が認められる。
        恐怖して,驚愕して,などは任意性は認められない。
      → <悔悟の情が必要か>……判例は要求することが多い。

  (2) 「犯罪を中止した」……中止行為(必要的減免の根拠からの帰結は?)
   <他人の助力を得た場合・因果性>
    政策説………○
    責任減少説…○
    違法減少説…×

   <結果が発生した場合・因果性>
    政策説………×
    責任減少説…○
    違法減少説…×
     ただし責任減少説からも,中止犯も未遂の一種である以上,既遂に達すれば不可

   <予備罪にも中止犯の適用があるか?>
    問題の所在:殺人予備の場合(刑201)は情状による免除が認められるが,
          強盗予備の場合(刑237)は免除が認められておらず不都合
    いずれの説からも…○
    ただし,実行に着手する以前である以上,不可(判例)

 3.効 果:必要的減軽・免除

三 不能犯
 *Aは,Bを殺そうと思い,深夜,Bを見立てたわら人形に五寸釘を打ちつけた。
 実行行為性(法益侵害性)が認められない場合…不可罰

                    不能犯
                     ↑
        行為の質  :(法益侵害性の有無)
                     ↓
        時間的な流れ:(予備)→未遂犯→(既遂犯)

 <不能犯か未遂犯か(不能犯学説)>
  *Aは,Cが日本刀で切りつけたBにとどめを刺そうと思い,Bの心臓にピストルを発射したが,Bはその直前に息を引き取っていた。

  純粋主観説 :行為者の認識した事情を基に,行為者を基準として危険性を判断
  抽象的危険説:行為者の認識した事情を基に,一般人を基準として危険性を判断
  具体的危険説:一般人の認識し得た事情,及び,行為者の認識した事情を基に,一般人を基準として危険性を判断
  客観的危険説:行為時に存在した事情を全事情を基に,科学的見地から危険性を判断

 <判例(絶対不能相対不能説)>
  絶対に不能か,相対的に不能かで区別(客観説の一種)
   絶対不能=人を殺そうと思って,硫黄を飲ませる(不能犯を認めた唯一の事例)。
   相対不能=致死量に足りない毒を飲ませる。
        致死量に足りない空気を動脈に注射する。
        警察官から奪った(弾の入っていない)ピストルを人に向けて引き金を引く。


  第2節 共 犯


一 総 説

 1.共犯の意義及び種類
  (1) 必要的共犯と任意的共犯
   @ 必要的共犯
    ・収賄罪と贈賄罪   (双方とも処罰)
    ・わいせつ文書販売罪 (売主だけ処罰)
    <必要的共犯に任意的共犯の規定が適用されるか?>
     *Aは,Bにわいせつな文書を販売した。(Aはわいせつ文書販売罪)
     →BがAに販売するよう教唆した場合,Bに教唆犯が成立するか?
      原則:当然予想される相手方Bを処罰しない趣旨
      例外:執ように教唆した場合は認め得る(通説)

    A 任意的共犯
     ・共同正犯(刑60)
     ・教唆犯(刑61)
     ・従 犯(刑62)
     →拘留・科料のみに処すべき罪の教唆犯・従犯
      =処罰するためには特別の規定が必要(刑64)
     <罰金刑のみに処すべき罪は?>

  (2) 広義の共犯と狭義の共犯
   <正犯> <広義の共犯><狭義の共犯>
   直接正犯  共同正犯 ←→ 従 犯
    ↑
    ↓
   間接正犯    ←→    教唆犯

 2.犯罪共同説と行為共同説
  <正犯と共犯とは何を共同するのか>
   行為共同説:自然的行為で足りる(新派的)
         緩やかな行為共同説:ただし,犯罪行為でなければならない。
         部分的犯罪共同説 :ただし,構成要件が重なる範囲でよい。
   犯罪共同説:特定の犯罪行為でなければならない(旧派的)

   cf. 共犯と正犯は同じ罪名でなければならないか?(=罪名従属性)
    *Aは,Bに対しCの傷害を教唆し,Bは,殺意をもってCを殺害した。
     肯定説:Bは殺人罪,Aも殺人罪が成立(ただし刑は傷害致死罪)
     否定説:Bは殺人罪,Aは傷害致死罪が成立
     近時の判例は,罪名と科刑を分離しない。

 3.共犯独立性説と共犯従属性説
  (1) 実行従属性(従属性の有無)
   <共犯が成立するためには正犯行為が必要か?>
    *Aは,Bに窃盗を教唆したが,Bは,機会を逃し取りやめた。
     共犯独立性説:教唆行為があれば,正犯行為は不要
            →教唆行為があれば教唆者の悪しき内心は明らかとなる(新派)
     共犯従属性説:教唆行為だけでなく,正犯行為が必要
            →正犯行為がなければ法益侵害性はない(旧派)
            cf. 正犯行為が未遂に終わった場合は,未遂犯の教唆

  (2) 要素従属性(従属性の程度)
   *Aは,BにCの殺人を教唆し,BはCを殺害した。
    A →  B
              @ A B C
         Tb   ○ ○ ○ ○
         R    ○ ○ ○ ×
         S    ○ ○ × ×
         処罰条件 ○ × × ×

     @ 誇張従属性説:Tb + R + S + 処罰条件 =教唆犯
     A 極端従属性説:Tb + R + S        =教唆犯
     B 制限従属性説:Tb + R            =教唆犯
     C 最小従属性説:Tb                =教唆犯

  (3) 罪名従属性(→犯罪共同説と行為共同説)

 4.間接正犯と要素従属性
  間接正犯の理論は,教唆犯の処罰の間げきを埋めるために生まれた。
  ↓
  しかし,現在では,実行行為性(法益侵害性)の問題と考えられている。
    *Aは,ふだんから「反抗を抑圧」した「13歳」の養女に窃盗をさせた。
    「13歳」
      ・極端従属性説に立てば,問題なく間接正犯
      ・制限樹属性説に立てば,問題なく教唆犯  となるはず
     →しかし,判例は,「反抗を抑圧」した点を強調
     =被利用者が「道具」といえるか(道具を利用する行為は実行行為)

二 共同正犯

   ┌──────── 共 同 正 犯 の 構 成 要 件 ────────┐
   │                 │                 │
   │【客観面・法益侵害(違法)】   │【主観面・非難可能性(責任)】  │
   │                 │                 │
   │ 結 果 ←─── 一部実行 A │ 共同正犯の故意         │
   │     因果関係      │ │                 │
   │           意思の連絡 │                 │
   │               │ │                 │
   │ 結 果 ←─── 一部実行 B │ 共同正犯の故意         │
   │     因果関係        │                 │
   └─────────────────┴─────────────────┘

 1.意 義:二人以上共同して犯罪を実行した場合
   一部実行の全部責任 → 相互に利用補充関係が認められるから

 2.要 件
  (1) 客観面(意思の連絡・教条実行の事実)
   @ 意思の連絡
    <過失の共同正犯>
    *AとBは,工事現場で,お互いに失火しないように注意しながら,交代で溶接作業を行ったところ,失火させた。
     ・いずれの行為から失火したが不明であれば(因果関係不明),失火罪は成立しないはず。
     ・しかし,過失の共同正犯が認められるならば,双方に失火罪が成立。
      行為共同説:自然的な行為を共同で行えば足りる
      犯罪共同説:特定の犯罪行為を共同で行う必要あり
            →しかし,学説は肯定する(理論構成は複雑)

   A 共同実行の事実
    <共謀共同正犯>
    *暴力団の親分Aと子分Bは,対立する組織の親分Cの殺害を共謀し,Bが一人でCを殺害した。
     否定説:Aは全く実行行為を行っていない。教唆で足りる。
     肯定説:
       共同意思主体説  :謀議により「共同意思主体」が形成される。
                 そのうちの一人が実行すれば,各個人に帰責できる。
                 →しかし,個人責任の原則に反する。
       間接正犯類似の理論:一部行為の全部責任が認められるのは,共謀者が相互に相手方の行為をいわば自己の手足として利用し補充し合う関係が認められるから(間接正犯類似)。
                 したがって,全く実行しなくても帰責できる。

    <順次共謀>
    *AとBが共謀,BとCが共謀,Cが実行した場合,Aも共同正犯か?
             A
             │
             B
             │
     実行←─────C

  (2) 主観面:共同正犯の故意

 3.処 分:すべて正犯とする。

三 教唆犯

   ┌───────── 教 唆 犯 の 構 成 要 件 ─────────┐
   │                 │                 │
   │【客観面・法益侵害(違法)】   │【主観面・非難可能性(責任)】  │
   │                 │                 │
   │               A │ 教唆犯の故意          │
   │               ↓ │                 │
   │            教唆行為 │                 │
   │               ↓ │                 │
   │ 結 果 ←─── 実行行為 B │ 正犯の故意           │
   │      因果関係       │                 │
   └─────────────────┴─────────────────┘

 1.意 義:他人を教唆して犯罪を実行させた場合

 2.要 件
  (1) 教唆行為
   <教唆の未遂> →実行従属性参照

  (2) 教唆の故意

 3.処 分:正犯の刑を科する。

 4.間接教唆:教唆者を教唆した者
        =教唆犯と同じ
  <再間接教唆>
   (再間接教唆者)(間接教唆者)(教唆者)(正犯者)→(被害者)
      A   →   B  →  C →  D ──→ E

      Aも教唆者を教唆した者に当たる

四 従 犯

   ┌────────── 従 犯 の 構 成 要 件 ──────────┐
   │                 │                 │
   │【客観面・法益侵害(違法)】   │【主観面・非難可能性(責任)】  │
   │                 │                 │
   │     ←・・・ 幇助行為 A │ 従犯の故意           │
   │                 │                 │
   │ 結 果 ←─── 実行行為 B │ 正犯の故意           │
   │      因果関係       │                 │
   └─────────────────┴─────────────────┘

 1.意 義:正犯を幇助した場合

 2.要 件
  (1) 幇助行為
    物理的幇助だけでなく,精神的幇助も含む。
   <片面的従犯>
   *Aは,Bの気づかぬうちに,Bの開帳した賭博場へ客を集めた。
    →正犯者が幇助行為の存在を認識していなくても,犯罪の実行を容易にできる。
   <幇助の因果性>

 3.処 分:正犯の刑を「減軽」する(=法律上の減軽事由)

 4.間接従犯
  従犯を教唆した者(刑62U)→従犯の刑
  従犯を幇助した者

五 その他

 1.共犯と身分
  (1) 犯人の身分によって構成すべき犯罪 →共犯とする(刑65T)
   <65条1項の「共犯」に共同正犯も含むか?>
   「共犯」=教唆・幇助・共同正犯のすべて含む。
   * 非公務員Aは,公務員Bに対し,収賄を教唆した。

  (2) 犯人の身分によって刑の軽重があるとき →通常の刑を科す(刑65U)
   <65条1項と2項との関係>
   * 賭博の常習性のないAが,常習のあるBに対し,賭博を教唆した。
     →常習賭博罪は,単純賭博罪の加重類型

   * 横領罪の場合
      (身分なし) ( 占有 ) ( 占有+業務 )
    @ 非占有者A と 占有者C
    A 非占有者A と        業務上占有者D
    B         占有者C と 業務上占有者D
    <通説の処理>
     真正身分犯……65T
     不真正身分犯………………………………65U(犯罪の成否・科刑)
    @ 65T(単純横領罪)
    A 65T(業務上横領罪)・65U(単純横領罪)
    B             65U(単純横領罪)
    <有力説の処理>
     真正身分犯……65T(犯罪の成否)
     不真正身分犯…65T(犯罪の成否)・65U(科刑)
    @ 65T(単純横領罪が成立)
    A 65T(業務上横領罪が成立)・65U(単純横領罪の刑)
    B 65T(業務上横領罪が成立)・65U(単純横領罪の刑)

   <身分者が非身分者に加功した場合,身分者の刑はどうなるか?>
    *賭博の常習者Aは,常習性のないBの賭博行為を幇助した。
     正犯者B:「単純」賭博罪
     幇助者A:「常習」賭博罪の幇助犯

 2.共犯と錯誤(単独犯の錯誤論の応用)
  <問題の解き方>
   @ 客観的に何が起こったかを確定すること
     →正犯者に成立する犯罪を確定
   A 共犯者の故意の内容を確定すること
   B 法定的符合説による処理

  (1) 具体的事実の錯誤
   ・Aは,BにC宅へ強盗を教唆したところ,BはD宅へ強盗に入った。
    B=強盗罪
    A=主観:強盗(C宅もD宅も構成要件の範囲内で符合)=強盗罪の教唆犯

  (2) 抽象的事実の錯誤
   <構成要件の重なり合う限度>
   ・Aは,BにC宅へ窃盗を教唆したところ,Bは強盗を働いた。
    B=強盗罪
    A=主観:窃盗(窃盗の範囲内で重なり合う)=窃盗罪の教唆犯

  (3) 結果的加重犯に対する錯誤と共犯の過剰

   <結果的加重犯>
   ・Aは,BにCの傷害を教唆し,BがCを殴ったところ,Cは路上に頭を打ちつけて死亡した。
    B=傷害致死罪
    A=主観:傷害(加重結果に過失不要)=傷害致死罪

   <共犯の過剰:構成要件の重なり合う限度+結果的加重犯>
   ・Aは,BにCの傷害を教唆したところ,Bが殺意をもってCを殺害した。
    B=殺人罪
    A=主観:傷害(傷害致死の範囲内で重なり合う)=傷害致死罪


   第6章 罪 数


一 意 義

 (1) 本来的一罪………………………一罪しか成立しない場合(単純一罪・法上競合・包括一罪)
 (2) 観念的競合(科刑上一罪)……数罪が成立し,その数罪が一個の行為で行われた場合
 (3) 牽連犯(科刑上一罪)…………数罪が成立し,その数罪が目的手段又は原因結果の関係にある場合
 (4) 併合罪……………………………禁錮以上の確定判決を得ていない数罪←→独立数罪

二 罪数の処理手順 :(1)犯罪の個数,(2)行為の個数,(3)目的手段の関係の有無,という三つを判断する。

 (1) 犯罪の個数(本来的一罪)
  @ 複数の犯罪を構成する余地のある場合,まず,それが「一罪か数罪か」(犯罪の個数)を判断する。
   *Aは,複数の者にわいせつな写真集を販売した。(わいせつ図画販売罪)
   *Aは,バスを爆破して複数の者を死亡させた。(殺人罪)

   判断基準:意思・行為・結果・法益など一切の事情の総合的な判断である構成要件的な評価の回数(特に法益)

   <不可罰的事後行為> 〜窃盗罪などの状態犯の場合〜
    *Aは,窃取した預金通帳と印鑑を利用して銀行から払戻しを受けた。(窃盗罪・詐欺罪)

     後の行為が当初の行為による違法状態によって評価し尽くされているときは別罪を構成しない。
     しかし,新たな法益侵害があれば別罪を構成する。

  A 本来的一罪の処断:一罪の場合はその成立した罪で処断される。

 (2) 行為の個数(観念的競合…科刑上一罪)
  @ 数罪の場合には,「一個の行為か数個の行為か」(行為の個数)を判断する。
   *Aは,酒に酔って自動車を運転し通行人をはねてけがをさせた。(酒酔い運転罪・業務上過失傷害罪)

   判断基準:「一個の行為」
          法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,
          行為者の動態が社会的見解上1個のものと評価をうける場合をいう。
         →ある時点で交叉し重なり合うものであっても数個の行為であればよい。
                  酒酔い運転=連続した行為
                  人をはねる=一時点の行為
        「数個の罪名」
          異なる数個の罪名であると,同じ数個の罪名であるとを問わない。
  A 観念的競合の処断:数罪が一個の行為で行われた場合には,そのうちの最も重い刑で処断される(刑54T前段)。

 (3) 牽連関係(牽連犯…科刑上一罪)
  @ 数罪が複数の行為で行われた場合には,それらの数罪が「目的手段・原因結果の関係にあるか」(牽連関係)を判断する。
   *Aは,他人の住居に侵入し,金品を窃取した。(住居侵入罪・窃盗罪)
   *Aは,保険金目的で自宅に放火して保険金を交付させた。(放火罪・詐欺罪)

   判断基準:「犯罪の手段」
            ある犯罪の性質上その手段として普通に用いられる行為をいう。
        「犯罪の結果」 ある犯罪より生ずる当然の結果を指す。
                ・ある犯罪と,手段若しくは結果たる犯罪との間に密接な因果関係のある場合でなければならない。
                ・犯人が現実に犯した二罪がたまたま手段結果の関係にあるだけでは牽連犯とはいい得ない。
  A 牽連犯の処断:数罪が手段結果の関係が認められれば,観念的競合と同様に科刑上一罪として処断される(刑54T後段)。

 (4) 併合罪(狭義)
  これらが認められなければ,「併合罪」として科刑上も数罪として扱われる(刑46以下)。

三 併合罪の範囲と処断

 (1) 併合罪の範囲
  @ 併合罪(広義):禁錮以上の確定判決を経ていない数罪(刑45)
   *甲は,ABCDEF罪を順次犯し,C罪につき禁錮刑以上の確定判決を受けた。
      犯罪の実行= A罪  B罪  C罪  D罪  E罪  F罪
      判決の確定=               C罪

   →C罪の「禁錮」以上の確定判決により,併合罪関係が遮断される。
    ・A罪・B罪・C罪・D罪……45条後段の併合罪(後段グループ)
    ・E罪・F罪……………………45条前段の併合罪(前段グループ)

   →余罪の処理(後段グループ)
    ・C罪の判決確定後,さらにA罪・B罪・D罪の処断可(刑50)
    ・ただし,刑の執行は51条による(同一審判の場合とのバランス)。

  A 独立数罪  :後段グループの罪(ABCD) と 前段グループの罪(EF)
    懲役刑執行終了後,5年以内にE罪を犯し懲役刑に処す場合→再犯加重(刑56以下)
    懲役刑執行終了後,10年後にE罪を犯し懲役刑に処す場合→初犯(刑34の2T)

 (2) 併合罪の処断
  *甲は,併合罪の関係にあるA罪とB罪とを犯し,同時審判を受けた。
    殺人罪     :死刑 無期懲役 3年以上の懲役
    業務上過失傷害罪:        5年以下の懲役禁錮 50万円以下の罰金
    過失傷害罪   :                  30万円以下の罰金 科料

  @ 1罪につき死刑(殺人・業過)        他の刑を科さない。 …没収は併科(刑46T)(→E)
  A 1罪につき無期懲役・禁錮(殺人・過失傷害) 他の刑を科さない。 …罰金・科料・没収は併科(刑46U)(→E)
  B 2個以上の有期懲役・禁錮(殺人・業過)   最も重い刑につき定めた刑の長期×1.5=長期(刑47)
                          …各罪につき定めた長期を合算したものを超えることはできない。
  C 2個以上の罰金(業務上過失傷害・過失傷害) 各罪につき定めた罰金の合算額以下(刑48U)
  D 2個以上の拘留・科料(過失傷害・過失傷害) 併科(刑53U)

  E 罰金・拘留・科料と他の罪          併科 …死刑の場合を除く(刑48T・53T)。
  F 没収                    重い罪に没収を科さない場合でも,他の罪に没収があれば付加(刑49T)
  G 2個以上の没収               併科(刑49U)


    第3編 刑 罰



   第1章 刑罰権



   第2章 刑罰の種類


一 生命刑:死刑

二 自由刑:懲役・禁錮・拘留

三 財産刑:罰金・科料・(労役場留置)

四 没収・追徴

 1.没 収
  (1) 没収対象物
   @ 犯罪組成物件…偽造文書「行使」罪の「偽造文書」(実行行為の不可欠の要素)
   A 犯罪供用物件…殺人に用いたナイフ
   B 犯罪生成物件…文書「偽造」罪の「偽造文書」
   C 犯罪取得物件…賭博に勝って得た物
   D 犯罪報酬物件…犯罪行為の報酬
   E 犯罪対価物件…生成・取得・報酬物件の対価

  (2) 没収の及び得る範囲
   @ 没収対象物であること
   A 没収対象物の従物………殺人に用いた刀のさや

  (3) 没収の要件
   @ 犯人以外の者に属しないこと(知情後の取得は可)
    * Aが,Bから盗んだカバン         →犯罪取得物件,しかしB所有
    * Aが,Bから盗んだカバンを売って得た金銭 →犯罪対価物件 没収可

   A 拘留・科料に当たる罪…犯罪組成物件のみ可

 2.追 徴:没収が不可能な場合


   第3章 刑罰の適用


一 累犯加重

二 法律上の減軽

 1.法律上の減軽・免除事由

  任意的減軽…自首・法律の錯誤・障害未遂,なお酌量減軽
  必要的減軽…従犯・心神耗弱・身の代金拐取罪の解放

  任意的減免…過剰防衛・過剰避難・虚偽告訴罪の自白・偽証罪の自白
  必要的減免…中止未遂・身の代金拐取予備罪の着手前の自首

  任意的免除…犯人蔵匿罪及び証拠隠滅罪の親族・放火予備罪・殺人予備罪
  必要的免除…私戦予備陰謀の自首・内乱予備陰謀の自首・親族相盗例・盗品等の親族

 2.自首・首服

  「捜査機関に発覚する前」
  @ 犯罪事実が全く捜査機関に発覚していない場合
  A 犯罪事実は発覚していても,その犯人がだれであるかが発覚していない場合
  × 所在不明にすぎない場合

三 併合罪加重(→罪数参照)

四 酌量減軽


   第4章 刑罰の執行と消滅


一 刑罰の執行

二 刑の執行猶予

┌───────────── 執 行 猶 予 の 要 件 ──────────────┐
│                      │                   │
│   「前に…処せられた」者の要件     │  今回言渡しをすべき「刑」の要件  │
│                      ├─────────────┬─────┤
│                      │    懲役・禁錮    │ 罰 金 │
│                      ├──────┬──────┤     │
│                      │ 3年以下 │ 1年以下 │50万以下│
├──────────────────────┴──────┴──────┴─────┤
│(禁錮以上の)                ┌─────────────────┐│
│ ★─確定判決なし……………………………………│  25T@・初度の執行猶予   ││
│ │                     │                 ││
│ │                     │                 ││
│ │     ┌──期間満了………………………│→刑の言渡しが失効するから(27)││
│ │     │               │                 ││
│ │     │   ┌併合罪の関係にある……│→単一刑で処断すべきだから(47)││
│ │┌猶予判決┤   │           └─────────────────┘│
│ ││    └期間中┤           ┌─────┌──────┐────┐│
│ ││        └併合罪の関係にない……  不可  │25U・再度│ 不可  │
│ ││                    └─────└──────┘────┘│
│ ││                             ↑         │
│ ││                         (保護観察中は不可)    │
│ ││                                       │
│ ││                    ┌─────────────────┐│
│ └┤    ┌────執行終了後5年経過……│  25TA・初度の執行猶予   ││
│  │    │     ↑         └─────────────────┘│
│  │    │ (「刑の執行の免除」を含む)                   │
│  │    │   ↓           ┌─────┬──────┬────┐│
│  │    ├──執行終了(5年経過前)……                   │
│  └実刑判決┤                     不      可     │
│       └執行中………………………………                   │
│                       └─────┴──────┴────┘│
└──────────────────────────────────────────┘

<刑の消滅>

                               (刑の消滅)

        ┌禁錮以上→刑の執行・刑の執行終了───────+10年
  実刑判決確定┤
        └罰金以下→刑の執行・刑の執行終了────────+5年

  執行猶予判決確定──────────────────執行猶予期間満了

  刑の免除判決確定───────────────────────+2年

  ※ 刑の執行終了=(@刑の執行の免除,A刑の時効,B仮出獄+刑期満了)

<前刑(A罪)の要件〜B罪の執行猶予の可否〜>
   ●=判決言渡日
   ◎=判決確定日
 1.条文の典型例

  (1) (A罪なし)
                         B   ●=初度の執行猶予(刑25T@)

  (2)  A ●◎……刑の執行終了+5年経過後
                         B   ●=初度の執行猶予(刑25TA)

  (3)  A ●◎……執行猶予期間中
             B   ●            =再度の執行猶予(刑25U)
                              (A罪が保護観察中は不可)

  (4)  A ●◎……刑の執行終了+5年経過前
                   B ●          =執行猶予は不可

 2.応用その1(刑の消滅)

  (1)@ A ●◎……刑の執行終了+10年経過後
                         B   ●=初度の執行猶予(刑25T@)

  (1)A A ●◎………………執行猶予期間満了後
                         B   ●=初度の執行猶予(刑25T@)

  (1)B A ●◎……………刑の免除+2年経過後
                         B   ●=初度の執行猶予(刑25T@)

 3.応用その2(併合罪の場合)

  (4)@ A ●◎……刑の執行終了+5年経過前       (実刑判決のとき)
      B              ●        =執行猶予は不可((4)の原則どおり)

  (4)A A ●◎……執行猶予期間中            (執行猶予のとき)
      B          ●            =初度の執行猶予(刑25T@)
                               (再度の執行猶予ではない。)
    →A罪と同時に審判されたならば単一刑として執行を猶予された可能性があるから

<言い渡す刑(B罪)の要件>
1.初度 :3年以下の懲役・3年以下の禁錮・50万円以下の罰金
2.再度 :1年以下の懲役・1年以下の禁錮

<保護観察>
1.初度 :任意的
2.再度 :必要的

<執行猶予の取消し>
1.必要的取消し:
         (3)・(4)Aで執行猶予されなかったとき
2.任意的取消し:
         猶予期間中の罰金刑
         保護観察の遵守義務違反




AIMONのホームページへ戻る